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もしも地球の支配者が猫だったら  作者: しいな ここみ
第三部 人間 vs 人間

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ようやくの首脳会談のはじまり

 サンバさんの足は速かった。


 俺はマオを抱いて、振り落とされないように必死でその首に掴まっていた。


「あの……! サンバさん! もうちょっとゆっくりで……」


 そうお願いしたが、聞こえてなかった。あるいは言葉が通じてなかったのか。


 とても楽しそうに、ドッカ、ドッカと豪快に走る彼女は止められなかった。


 やがて猫の町が見えてきて、数匹の猫とすれ違った。

 猫たちはサンバさんを見るとおおきく目を見開いて固まった。


「アハハハ! イーきにー!」

 サンバさんがおおきく口を開いて挨拶すると、猫たちは弾かれた木の枝みたいになって飛びのいていく。


 マオを見るとぎゅっと目を閉じて、俺の胸に掴まっていた。


 広場が見えてきた。みんなの姿が……さすがにみんなびっくりしている。虎なんて見たのはきっと初めてだろう。


 松田さんがライフル銃をこっちに向けて構えるのが見えた。やばい!


 そう思うのと同時に、前のほうで勇ましい声がした。


「オラ! オラ! オラ!」


 サンバさんの巨体が後ろへ吹っ飛んだ。


 俺はマオを抱いて空を飛んだ。



 (=^・^=) (=^・^=) (=^・^=)



「ごめんなさい……」

 コユキが謝った。

「てっきりボクたちを食べにきた敵だと思って……」


 俺は猫語翻訳機をつけてコユキとサンバさんのやりとりを聞いていた。


「いいんだよ。ふふっ……、なかなかお強いんだねぇ、坊や」


 ぶっとい前足でサンバさんがコユキの頭を撫でた。


「み……、ミチタカ……っ!」

 山原隊長が俺に聞く。

「そ……、そのでっかい猫はなんだっ!? 撃ち殺さなくて大丈夫なのかっ!?」


 見ると青江総司令官含め全員が遠くに後ずさっている。松田さんは銃口をずっとサンバさんへ向けたままだ。


「だめですよ! このひとはリッカのお母さんなんですから、殺しちゃだめです!」


「リッカ? 橘リッカくんのお母さんだとおっ!?」

 隊長がびっくりして声をあげた。

「それは人間じゃないじゃないか! あの女、一体何者なんだ!?」


 しまった。これは言わないほうがよかったかな。


「ところで……」

 後ろのほうから青江総司令官が俺に聞いた。

「……そのオレンジ色の猫が……マオ・ウなのか?」


「あっ、はい!」

 俺はマオを紹介できることが嬉しくて、笑顔全開で答えた。

「コイツが地球の支配者で猫の王、あの有名なマオ・ウですよっ!」


 松田さんの銃口が素速くこっちを向いた。

 アズサちゃんがなんだかチェーンみたいな武器を取り出してぐるぐる回してる。

 秦野さんは特別おおきな殺気を背中から立ち昇らせて、何か水鉄砲にも見える武器を懐から抜き取った。


「……まぁ、待て。おまえら」

 総司令官が三人をなだめてくれた。

「今ここでマオ・ウを殺したところで目的の達成とはならん」


「そうですよっ! 俺たちの目的は、猫との和平が可能だということを、全人類に知ってもらうことなんですから」

 俺は胸にマオを抱いて守りながらそう言ったが、三人は明らかに俺ごとマオを消し去ろうとしていた。


『にゃう……』

 固まっていたマオがようやく動きだした。

『うなな、ユキにゃん、らるるー』


 そう言うと俺の胸からぱっと飛び降り、遠巻きに見つめている猫たちの中へ駆け込んでいく。

 猫の群れがぱっくりと割れ、その間からユキタローの姿が現れた。何やら大砲みたいな武器を前にして、怖い顔をしている。どうやらあそこから我々の動向をずっと見守っていたようだ。コユキやマオにみんなが手を出していたらやばかったかもしれない。


 マオがユキタローに人言語翻訳機を借りて、それを頭につけて、とてててて……と、小走りに戻ってきた。そしてにこっと笑うと、青江総司令官たちに挨拶をする。


「イーきにー! おまえら、遊ぶにゃ!」


 松田さんが発砲した。


 銃弾がマオの足元の地面に当たり、びっくりしてマオが飛び跳ねた。


 俺の後ろのほうからはものすごいおおきな何かのかたまりが発射された。ぼふん! と巨人が放った屁のようなガスが、松田さんに命中し、包みこんだ。


「あひゃ!?」

 松田さんが急に笑いだした。

「あひょ……? にゃ……、にゃーっはっは!」


 笑気ガスだ。人間をバカにしてしまうガス弾をユキタローが発射し、松田さんをバカにしてしまった。


「大丈夫ですっ! 三時間ぐらいで元に戻りますからっ!」


 慌てて俺はフォローした。しかし総司令官は怒っていないどころか、むしろ謝った。


「……今のは松田が悪い。猫が反撃するのは当たり前だ」

 俺にそう言うと、マオの前に歩み出て、頭を下げる。

「すまなかった、猫の王よ。許してもらえるだろうか?」


「び……、びっくりしたのにゃ」

 マオはおおきな目に涙をためて、答えた。

「びっくりしたのにゃー! でも遊んでくれるなら許す!」


 ほっとした顔をすると、総司令官が今度は猫波の中のユキタローのほうへ目をやった。


「すごい兵器だな、それは。先ほど発射するところを見ていたが、確かに周りの猫にもガスはかすめていた。しかしバカになったのは松田だけだ。どういう仕組みなのだ? 人間の知能のみを下げ、猫には無害なガス兵器というのは?」


 ユキタローは何も言わず、ただ青江総司令官のほうをまっすぐ睨みつけていた。




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― 新着の感想 ―
色々解析する気満々だな、青江総司令官。 しかしミチタカ、口が軽いよ!?
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