歓迎するにゃ! だからお魚ちょうだい! (コユキ視点)
ボクはハキハキと前に出ていくと、にこっと笑い、歓迎のことばを人間語で述べてから、人間さまたちのボスっぽい背の低い子に言ったにゃ。
「お魚ちょうだい!」
ボクももう生後7ヶ月。
1歳になるまではおとなと認めてもらえないけど、自分ではもう立派なおとなのつもり。
ちゃんともう上手なおねだりのしかたも知ってるにゃ。
猫本のおじちゃんにスリスリ甘えれば、きっとたっくさんのお魚が……。あれ?
「ねぇ、猫本のおじちゃんは?」
マコトさんに聞いてみたにゃ。
「猫本のおじさんはお留守番よ。車に8人しか乗れなかったの」
世界が真っ暗になったにゃ。
猫本のおじちゃん、ボクに会いたくなかったの?
ボク、おじちゃんの胸に心ゆくまでほっぺたをスリスリして、もらったお魚をお腹いっぱい食べられると思ったのに……。
「……おい」
人間さまのボスらしき子がボクに言った。
「なぜ貴様は人間の言葉が喋れる? 見たところ翻訳機のようなものもつけていないようだが……」
ニャーニャーニャーニャーと騒々しく高い声をあげて何かが横のほうからやってきた。見るとマオんとこの四匹の子猫たちが、チョコチョコとたどたどしい四本足で歩きながらこっちへやってくる。
『ニャー』
『ニャーニャー!』
『ニャーニャーニャー!』
まだ言葉も喋れない赤ちゃんのくせに、悔しいけど、おねだりはボクより上手だ。くっ……! ボクもあんなふうに、何も恐れずただひたすらにかわいがってもらえることを強要できた頃があったのに……!
「マコトさん」
ボクはマコトさんの胸を見上げた。
「そこへ飛び込んでもいいですか?」
「いいわよ?」
マコトさんがにっこり笑って、腕を広げてくれた。
お尻を振って、力を溜めて、ボクがそこに飛び込むと、気持ちいい世界が広がった。こんな気持ちいいもの、他には乳牛さんのお腹ぐらいしかない。
「な……、なんと羨ましい!」
人間さまのボスが言った。
「あ……いや、轟隊員! 何をしているのだ! 猫を胸に抱くなど……」
「マコトっ! 火炎消毒するわ!」
青い髪のひとがなんかの機械をこっちに向けながら言った。
「マコちん、信じらんないっ! ゴキブリ抱いてるよーなもんッスよ、それ!」
ピンク色の髪のひとが叫んだ。
金色の髪の背の高いひとは、マオんとこの四匹の子猫たちに囲まれて、困っていた。「ひいぃっ!」と怯えた声を漏らしながら顔が笑ってる。まぁ、子猫って無敵だから。
「マコトさん」
ボクは精一杯、子猫みたいな甘えた声を出した。
「お魚ちょうだい」
「ごめんね、コユキちゃん。今回はお魚持ってきてないの。お荷物が他に多くて……」
残念にゃ……。
またあの猫の町の近くにはいないニジマスという名のお魚がいっぱい食べられると思ったのに。
それでもボクはマコトさんの胸にほっぺたをスリスリすると、ぽよぽよという感触にゴロゴロと喉を鳴らした。
そこへ遠くのほうからドッカ、ドッカと、何かの太い足音がやってきた。猫の耳はとてもいいので、ピコンとレーダーみたいにそっちのほうを勝手に向くと、捉えた。
何の足音だろう? と思っていると、それがやってきた。黄色に黒の縞模様。あれは……虎にゃ! 猫を食べる猫にゃ! 危険にゃ!
ボクはサッ! と飛び降りると、マコトさんを守った。
「オラ! オラ! オラ!」
猫パンチ3発。爪は出さずにおいてやった。
虎が後ろに吹っ飛んだ。猫は強いのにゃ。恐れるものが多すぎて、かえってバカ力を発揮するのにゃ!
その背中に乗ってたマオとみっちゃんも一緒に吹っ飛んだ。
……あれ?
ボク、いけないことしたかにゃ?




