猫ちゃんがいっぱい (轟マコト視点)
ミチタカくんがマオたんを受け止めて飛んでいった。
心配だわ、マオたんが。
でもミチタカくんもあれで意外と頼りになるところがある。きっとマオたんをちゃんと助けて、猫の町で待っていれば連れてきてくれると信じて、あたしたちは車をそのまま走らせ、やがて猫の町に着いた。
広場に車を停めると、周りには誰もいなかった。海崎さん、あたし、隊長、松田さん、アズサ、ユイ、総司令官の順で車を降りた。
しぃんとしているけど、明らかに物陰からこっちを見ている猫ちゃんたちがそこら中にいた。
でも総司令官は気づかないようで、不愉快そうに仰る。
「なんだ? 誰も迎えに出てこないとは随分無礼だな」
「突然やってきたのですから仕方がありません」
山原隊長が答える。
「それに猫代表のマオくんがあっちへ飛んで行きましたから……」
「おい、猫!」
中井アズサが周囲に向かって言った。
「気配、感じんぞ? コソコソ隠れてないで出てくればぁ?」
するとそれに興味をひかれたように、やたら丸い猫が一匹、目をまん丸くして木の陰から姿を現した。
「旦那ァ〜」みたいな声を出しながらこっちへ歩いてくる。
総司令官たちが後ずさった。
鳥肌を立てて身を固くしている。
気持ちはわかる。あたしもつい三ヶ月くらい前までだったら、同じような反応をしていただろう。
やたらおおきくて意地が悪そうな目、液体みたいにヌルヌルとした動きをする猫の見た目には、やっぱり生理的に嫌悪感を催す人がいても全然不思議じゃない。
ネズミを捕まえてさんざん弄んでから殺して食べる猫の残忍な映像を幼少期から見せられて教育されているあたしたち人間には、むしろこれが当然の反応だ。
丸い猫ちゃんに続いて、物陰に隠れて見ていた猫ちゃんたちが一斉に姿を現した。
総司令官が「うっ……」と声を漏らす。ゴキブリの大群が目の前に姿を現したのを見ているような気分なのだろう。
松田さんがライフル銃を構えかけたのを、あたしは手を伸ばして止めさせた。そして総司令官にお願いする。
「忘れないでくださいね? 私たちは猫と仲よくするためにここへ来たということを」
総司令官は子供らしい怯えた顔をしながらも、気丈に仰った。
「違うだろう、轟隊員。私は猫との友好とやらが可能なものかどうか、確かめに来たのだ」
大勢の猫ちゃんがあたしたちを取り囲んだ。
珍しい食べ物でも見るように、丸くておおきな目を並べてじっと見ている。
猫ちゃんを好きになってしまったあたしでも、さすがにちょっとだけ、恐怖を覚えてしまった。
だから猫はゴキブリのようなものだとまだ思っている四人の感じている恐怖はどれほどのものだろうと想像する。
「クッ……! 目つぶし爆弾を持ってくればよかったわ」
秦野ユイが歯ぎしりしながらそう言った。
「こんな気持ち悪い目にこれ以上見つめられたら気が狂っちゃう!」
猫ちゃんたちは口々に「中川せんせい〜」とか「高らかに、高らかに」とか「吉野家ァ〜」とかに聞こえる意味不明なことばを漏らしながら、ただ遠巻きにあたしたちをじーっと見ているだけだ。
「ジロジロ見るな、猫どもめ!」
総司令官が声を荒らげた。
「おまえらの代表を出せ! 無礼だぞ!」
その代表者のマオたんが飛んで行っちゃったからなぁ……。ユキタローちゃんが出てくるのかしら?
そう思っていると、取り囲む猫の群れの後ろのほうから人間語で誰かが言った。
「すみません。今、支配者のマオ・ウが不在ですので、ボクが代わりに対応させてもらうだにゃん」
青江総司令官の声にそっくりだった。13歳ぐらいの少年の声だ。
声の主は猫だかりをかきわけ、よいしょよいしょとようやく前に出てきた。メガネをかけたその白い猫に見覚えがあった。
「イーきにー」
にこっと笑うと、その猫ちゃんは名乗った。
「ボク、次代地球の支配者のコユキっていいます。よろしくお願いするにゃ!」




