空飛ぶ猫
装甲車の定員は8名だ。
青江総司令官、三人の女性が乗ることは確定だった。
あとの四人は隊長、海崎さん、マコトさんはすぐに決まったが、あと一人を誰にするかで揉め、くじ引きで決めることになった。
猫本さんが辞退したので俺とユカイとさる……山田副隊長の三人での対決だった。
ユカイはメロン畑を頭に浮かべて鬼の形相になっていた。
山田先輩はたぶんミオのことを頭に浮かべていたのだろう、鼻の下が異様に伸びていた。
しかしくじ引き対決をするまでもなく、直前になって秦野さんからの指名があった。
「ミチタカくん、あなたが来るのよ。でなきゃわたし、行かないから」
それを聞いて青江総司令官が言った。
「秦野が行かなかったら視察の意味がないぞ。……おい、冴木隊員。来い」
ユカイがハチミツを横取りされた凶暴な熊のようになって暴れだしかけた。山田先輩が反省する猿のようにショボーンとなった。
だけど構わず俺はお言葉に甘えた。
マオに会いたい!
きっとマオは俺がいなくてもマコトさんに会えたらそれで大喜びするだろうが、俺がマオに会いたいのだ。
それにこの視察の行方を是非とも見守りたいという思いがあった。
(=^・^=) (=^・^=) (=^・^=)
車を自動運転で走らせていると、樹木が疎らになった草原の上を何かが飛んでいるのが見えた。
どう見ても鳥じゃなかったので、みんながそれに注目する。
「なんだ、あれは?」
総司令官が目を凝らす。
「ムササビはあんな飛び方はしない。……まるで空気が漏れた風船がめちゃくちゃに飛ぶような飛び方だ」
俺も目を凝らした。
見たこともない飛行物体だ。
宇宙人がまた攻めてきたのか?
そう思っていると、マコトさんが大声をあげた。
「マオたんよ! マオたんが空、飛んでる!」
「マオ……? まさか……猫の王のマオ・ウか?」
総司令官がマコトさんに尋ね、すぐに松田さんに命じた。
「よし、撃ち落とせ」
「いや、待って!」
俺が叫ぶより早く、松田さんが狙撃銃をどこからともなく取り出し、構えた。
しかしマオの飛び方がめちゃくちゃで、狙いを定められないようだ。
低空をこちらへ突っ込むように飛んできたかと思うと急上昇して、白い胸を張って、もふもふした顎の下を見せつけるようにしながら、高いところへ呆然と飛び上がっていく。
「あれはコントロールできていないな」
海崎さんが呟いた。
「あのままではいずれ地上に激突するぞ」
「マオくん!」
隊長が聞いたこともないような切なげな声で泣いた。
「自爆なんて許さない」
秦野さんがブツブツと言った。
「……シホさん。地上に激突する寸前を狙って仕留めるのよ」
「いや! ちょっと待ってください!」
思わず俺は声を張り上げた。
「友好を結びに来たんでしょう!? 助けないと!」
「猫本さんを連れて来ればよかったわ」
マコトさんが心配でたまらなそうに身をよじる。
「彼の忍術なら何とかできたかもしれないのに……!」
俺の体が勝手に動いていた。
装甲車の上に出ると、立って両手を広げ、叫んだ。
「マオ! ここに飛び込め!」
「ミャーーーー!!」という声がした。マオが俺に気づいてくれたようだ。上昇していたのを方向を変え、まっすぐ俺の胸に突っ込んでくる。
「来い! マオ!」
「ミッニャンニャンニャ!!」
小さな砲弾を喰らったように俺は後ろへ吹っ飛んだ。




