鼻唄(マオ視点)
『るん、るん、るんっ♪』
釣り竿を肩にかつぎ、上機嫌で道を歩くボクの口から唄が出た。
『おっ? マオ、鼻唄を歌ってんな?』
同じく釣り竿をかついだビキにゃんが褒めてくれる。
『まるで猫の始祖、パンジーさんみたいじゃねーか』
『ふるるっ、ふふるん、るんっ♪』
鼻唄が止まらない。
だってこれからみんなで魚釣りに行くんだ。
森の湖に棲む、200匹の猫でも食べきれない、おっきな魚を釣りに行くんだ。
『ふふ。マオったら上機嫌だね』
ユキにゃんも褒めてくれた。
『マオが楽しそうだと、ユキも嬉しくなるよ』
『にゃふるっ、るん、るんっ♪』
ボクは鼻唄で応えた。
『それにしても……。ユキタローには知らせんなって言ったのによ……』
『いいじゃないか。ボクも魚釣りは大好きなんだからね』
ビキにゃんとユキにゃんが仲良くお話してる。良きことにゃ!
『人間が出るからやめろって絶対に言うと思ったのによ』
『それは思ったけどね、でも人間なんて滅多に出会うもんじゃないからね。楽しもう』
『人間に会ったら俺に任せろ』
懐の「くるくる光線銃」に手をやりながら、ブリキにゃんが言った。
『お前ら戦闘に不慣れだろ? 俺はコイツで今までに3人の人間を殺ってる』
『3人って……微妙な数だな』
ビキにゃんがツッコむ。
『自慢になるのか、それ?』
『数が少ねーんだからよ。じゅうぶん自慢できる数だろうがよ』
『大体その銃じゃ殺せねーだろ。人間を数時間バカに出来るだけだろ』
『じゅうぶんだろうがよ! テメェ、黙っとけ! テメェもバカにすんぞ!?』
『んだと!?』
『やんのか、ゴラァ!?』
『おう! かかって来いや! オレの猫キックは痛いぜ!?』
ビキにゃんとブリキにゃんはすぐ喧嘩を始めるから嫌い。
『マオも持ってるよね?』
ユキにゃんがボクに聞く。
『何を?』
ごめん、ユキにゃん。楽しすぎてみんなの話、聞いてなかった。
『くるくる光線銃。ちゃんと懐に入ってる?』
懐に手を入れると、あった。
『あるにゃん』
『よしよし』
ユキにゃんが優しく笑う。
『まず出会うことはないとおもうけど、人間に出会ったらそれを発射しまくるんだよ?』
『どうやって撃つにゃん?』
ボクは銃を撃ったことがないどころか、人間に出会ったことすらなかった。
ブリキにゃんから乱暴に使い方を教えてもらうと、ちょっと気になったことがあったので、聞いてみた。
『人間って、どんな生き物にゃ?』
『あんまりそれ、話題にすんな』
ビキにゃんがそう言って、ガクブル震えた。
『思い出したくねーんだからよ、人間に遭遇しちまうかもしれねぇことなんて……』
『でも、出会っても、それが人間だとわからなかったら大変にゃん。
ウサギさんを人間だと思って撃ってしまいたくないにゃ』
『とりあえず、ウサギとは似ても似つかねーよ』
『猫ともかにゃん?』
『猫ともだ。っていうか、あれは動物じゃねぇ。バケモノだ』
『ば、バケモノ……?』
怖さでボクの耳が垂れた。
『ああ。まず、身体がでっけーんだ。5メートルはある』
『踏み潰されるにゃ!!』
『目が3つ、鼻が顔の真ん中とお腹にもあって、大きな口の中には尖った犬歯ばっかり並んでる』
『ガクブル! ガクブルにゃ!!』
『その口をぱっかり開けて猫を食うんだ。
身体から触手が何本も生えててな、それに捕まったらおしまいなんだ』
『どひー!!』
『ビキ……。てめーも人間見たことねーだろ』
ブリキにゃんが呆れた感じで言った。
『教えてやる。人間てのは、確かに身体はデケェが……』
『まあまあ。ブリキ』
ユキにゃんが遮った。含み笑いしてる。
『それでいい。そのぐらい怖いものだって思わせといたほうがいいよ』
ユキにゃんも釣り竿を楽しそうにかついでる。かついでないのはブリキにゃんだけだ。
みんな楽しいんだ。
「仕方がないからついて行く」とか言ってたけど、ユキにゃんもやっぱり魚釣りが楽しみなんだ。
ブリキにゃんは用心棒役だけど、何かがきっと楽しいんだ。
お日さまポカポカ。風も気持ちいい。
湖の「ヌシ」にゃんも、ボクらが来るのを楽しみに待っている。
さあ、行くぞ。
めざすは森の中ほどにあるという、静かな湖にゃ!




