猫殺しの秦野ユイ
外の点検を終え、基地に入ると、食堂で秦野ユイさんが一人、ミルクを飲んでいた。
「あっ。お疲れ様です。会議、終わられたんですか?」
そう聞いたが、無視された。
人工ミルクの入ったコップを持って、暗い目をしてなんだか壁をじっと見つめている。
機嫌が悪いのかな? と思い、素通りしようとしたら、声をかけられた。
「冴木くん……だっけ?」
「あっ、はい。冴木ミチタカです」
「わたしは……秦野ユイ」
「知ってます」
「有名?」
「えっ?」
「わたしって……、有名なの?」
「いえ。マコトさんが紹介してくれるのを聞いてましたから」
ばん! とテーブルを秦野さんが大きな音を立てて叩いた。
有名じゃないみたいに言われて怒られるのかと思ったら、何も言わずにそのまままた座った。元々機嫌が悪そうだったので機嫌を損ねたのかどうかもわからない。
なんだか怖いのでサッサと部屋に戻ろうとした。
「そ……、それじゃ、おやすみなさい」
するとまた声をかけられた。
「ねえ」
「は……はい?」
「わたしとマコトだったら……どっちが女性として魅力的だと思う?」
「え……えっ!?」
うろたえて、つい秦野さんの全身を見回してしまった。
同じ女性でも体型は様々だ。
リッカはスリムで、凹凸があまりないけど、それがかえってか弱い女性らしくて、少女みたいでかわいい。
マコトさんは爆弾みたいで、胸とお尻は爆発しそうなほど大きいのに、腰がやたらキュッとくびれてる。
秦野ユイさんは、すごく中間的というか、特徴がないというか、何も感じない。
白衣をだぼっと着ているせいで体のラインが隠れてることもあるが、なんだか今まで出会った女性の中で一番女性を感じない。
でも、お世辞のつもりで俺は答えた。にこっと笑って──
「秦野さんはとても魅力的だと思いますよ」
笑った。
それまでずーっと不機嫌そうで、目の下のクマをどよーんと目立たせていた秦野さんが、ぐりんと俺の顔をまっすぐ振り向くと、かわいい笑顔で、とても嬉しそうに口を開けた。正直、笑顔はとってもかわいかった。
「本当!?」
てっきり『お世辞やめろ、殺すぞ』とでも言われるかと思っていたので、そのギャップがまたすごく可愛らしかった。それで本当に思ったことを俺は素直に口に出すことができた。
「本当に……。はい、本当に、秦野さんって、かわいいなって、思いますよ」
「ミチタカくぅんっ!」
抱きつかれた。
瞬間移動したかと思うほどの素速さで、秦野さんはいつの間にか飛びついていて、俺をぎゅーっと抱きしめていた。胸が結構あることがこの時判明した。
「あっ……、あのっ……、秦野さん?」
「好き! 好き! ミチタカくん、好き!」
うろたえた末、俺は前から気になっていたことを咄嗟に聞いた。
「あの……。秦野さん? 以前、マコトさんがあなたのことを『猫殺しの秦野ユイ』と呼んでましたが……あれってどういう意味ですか? 猫を殺したことがあるんですか?」




