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もしも地球の支配者が猫だったら  作者: しいな ここみ
第三部 人間 vs 人間

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中井アズサ

 夕食は静かなものだった。


 食堂に全員集まって、ニジマスの塩焼き、イタドリの炒り煮、ジャガ芋のスープなどなど、ヤマナシ支部としては豪華な食事をふるまったのだが、なんだか東京本部の四人はつまらなそうに箸を進めていた。

 口に合わなかったのかな?




 夕食が終わると東京本部の四人だけでもう一度会議を行うとかで、会議室に籠もってしまわれた。

 山原隊長は青江総司令官が同じ空間にいるだけでくたびれてしまったようで、太郎丸たろまるを連れてサッサと寝室に入っていった。


 ちなみにNKUヤマナシ支部の建物はそれほど大きくはない。

 今まで俺とユカイ、山田先輩と猫本さんと海崎さんがそれぞれ別々に二部屋を使って寝ていたが、女性三人がやって来たので、俺とユカイは山田先輩たちの部屋に引っ越すことになった。三人部屋に五人ぎゅうぎゅう詰めだ。


 俺とユカイの部屋には松田さんと中井さんが入ることになるらしい。


 青江総司令官はどこで寝るんだろう?

 山原隊長と同室とかだったらちょっと隊長が気の毒だな……。





「じゃ、オレ、洗い物やっとくから、ミチタカは外の点検頼むな」


 ユカイにそう言われ、「オッケー」と答えて俺は外へ出た。

 ユカイはテキトーなやつだが、意外に食器を洗うことに関しては丁寧だ。「メロンを乗せる妄想をしたらお皿はピカピカにしとかなきゃ」って思うからだそうだ。


 外に出ると、辺りはもう真っ暗で、黒い森が不気味に基地を取り囲んでいた。

『カカシ』の動作をチェックする。問題なしだ。

 ここらには夜になると熊や狼が出ることがある。獣が近づくとこの『カカシ』がバタバタと動いて追い払ってくれるのでチェックを欠かすことはできない。


 基地の裏にも『カカシ』が設置してある。そちらを確認しに行くと、建物の壁にもたれて誰かがうずくまっているのを見つけた。


「あれっ?」

 近づいてみて、誰なのかが判明すると、俺は思わず声を漏らした。

「中井さん? 今、会議中のはずじゃ……」


 俺がそう言うと、中井アズサさんは不機嫌そうな顔を上げた。

 手に何やら持って、それを口に入れ、しゃぶっている。


「ここ、サクランボ生えてたッス」

 あくまで不機嫌そうに言う。

「天然もののサクランボなんて初めて食べたッス」


 そういえば『東京本部の四人で会議を行う』と青江総司令官が言っていたことに思い当たった。総司令官、秦野はだのさん、松田さん……もう一人は中井さんじゃなくて、マコトさんだったのかな? それにしてもサクランボだなんて──


 サクランボなんてこのへんにはいくらでも生えてる。

 太古には木になるものだったらしいが、今ではそれは地面から生えるものだ。

 ツクシやタンポポぐらいにありふれていて、は甘酸っぱいだけで石のように硬く、俺たちはわざわざサクランボなんか食べるもんじゃないと思っている。


 俺は気がしれないと思って聞いてみた。

「サクランボが好きなの?」


「トーキョーじゃサクランボは定番のおやつッスよ。こんなんじゃなく、もっと洗練されてるッスけどね」


 そういえば東京では食べ物は品種改良をして人間の口に合うようにされていると聞いたことがある。東京のサクランボは、なんだか柄をもってペロペロ舐めるキャンディーみたいなもので、ここに生えてる原生種とはまったくの別物なんだとか。東京の食べ物はなんでも同様に洗練されてるんだとか──

 だからここでは豪華な夕食をふるまったつもりが総司令官たちの口には合わなかったのかな。


「でもサクランボはサクランボッス。甘酸っぱいから……食感はクソまじぃけど、ないよりはましッス」


 そう言いながらコロコロと音を立ててサクランボをしゃぶる中井アズサさんは、体型のこともあってか、とっても子供っぽく見えた。


 同じ女性でも、性格も体型も様々なんだなと思ってしまう。

 リッカはスリムで、凹凸があまりないけど、それがかえってか弱い女性らしくて、少女みたいでかわいい。

 マコトさんは爆弾みたいで、胸とお尻は爆発しそうなほど大きいのに、腰がやたらキュッとくびれてる。


 中井さんはリッカほど細くはないけど、リッカ以上に少女って感じだ。背が低くて、胸とお尻は一応出てるのに、なせか子供に見える。

 17歳だっけ。年齢的にも子供だ。髪型をピンク色のツインテールにしているのがまた、その子供っぽさをブーストしている。


 だから俺の態度も口調も、つい子供に対するそれになってしまった。


「アズサちゃん、会議からは外されたの? 寂しいね」

 ピンク色のその頭をつい、ナデナデしてしまった。

「お兄さんが一緒に遊んであげようか? 仕事も終わったところだし……」


 首に何かが巻きついてきた。


「ぐえっ!?」


 呻き声をあげた俺を、構わずそのまま窒息寸前まで締め上げてくる。


「オイ……、ミチタカ。言っとくけど、歳は下でもあたしのほうが先輩だかんな?」


 コロコロとサクランボを転がす口が、耳元で厳しくそう言った。


「ぐえぇ……」

 俺は息を止められ、呻くしかできなかった。


 一瞬で俺の首に巻きつき、足と腕で締め上げていた中井さんは、ふわりと飛び降り、すたっと着地すると、怖い目をして、俺に指を突きつけた。


「舐めんじゃねーぞ、田舎者。あたしは関節技ならシホっちよりもマコちんよりも強えーんだぞボケ。今度ガキんちょ扱いしやがったらただじゃおかねーかんな」


 俺は咳込みながらその場にうずくまり、中井さんが去っていく足音を聞いていた。


 女性といっても様々だ。


 でも、マコトさん、松田さん、中井さんに関しては、強くて凶暴という共通点があるようだった。


 リッカの優しい笑顔が懐かしくなった。


 リッカ……。今、どこで何をしてるのかな。





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― 新着の感想 ―
ミチタカは相変わらず見えている地雷を踏み抜くのが好きだなあ。 この辺は女性が云々という話じゃない気がするよ。
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