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もしも地球の支配者が猫だったら  作者: しいな ここみ
第三部 人間 vs 人間

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松田シホさん

 青江総司令官が言った。

「ところで報告を受けていたところによると、もう一人、隊員がいたそうだが?」


 山原隊長が答える。

「はい。3ヶ月前に辞めていきました」


「辞めてどこへ行ったというのだ? この辺りに人間の集落はないぞ?」


「ええ……、聞いたのですが、なんだかお母さんと近くで暮らしておるとかで……」


「その隊員、名前は何といった?」


「橘リッカです」


「橘……?」

 青江総司令官は少し考えてから、言った。

「……まさかな」






 猫の町を再訪することが決まった。出発は明日だ。

 マオにアポイントメントを取っておきたいけど、猫の町には無線がない。いきなり訪ねて行くことになる。


 マオ、喜んでくれるかな?


 まさか……3ヶ月でもう忘れちゃってくれてるとかはないよな?




 厨房で俺がウキウキしながら今晩の食材のニジマスを捌いていると、後ろから黄色い声をかけられた。


「冴木隊員っ。お魚捌けるのねぇ? デキる男の人って素敵ですわ!」


 振り向くと、金色の巻き毛に縁取られた美人のお姉さんの顔があった。松田シホさんだ。背が高いので見上げてしまった。


 女性って、やっぱりいいな。同じ空間にいてくれるだけで嬉しくなってしまう。

 俺はなんだかマオに会えることでウキウキしていた心がさらにウキウキしてしまいながら、笑顔で言った。


「あっ。今夜は腕によりをかけて魚料理をごちそうしますよ」


「てっきりマコトが料理番やってるんだと思ってたわ」


「マコトさんのほうが料理の腕は上ですよ、悔しいけど。でも、マコトさんが来られるまでは俺が料理担当してましたんで……」


 そう答えながら、俺はつい松田さんのプロポーションをしげしげと眺め回してしまった。


 同じ女性でも、四者四様だ。

 リッカはスリムで、凹凸があまりないけど、それがかえってか弱い女性らしくて、かわいい。

 マコトさんは爆弾みたいで、胸とお尻は爆発しそうなほど大きいのに、腰がやたらキュッとくびれてる。


 松田シホさんは見るからに強そうだ。大きな体格は筋肉の鎧に覆われ、でも山原隊長みたいにずっしりと重そうなのとは違う。

 スリムにも見えるのに、間違いなく強そう。研ぎ澄ました刃みたいな、軽さと逞しさを合わせ持っている。


「フフフ……。何かしら? わたくしのボディーをやたらと眺め回してくださるのねぇ?」


「あっ、すみません」

 つい、口から本当に思ったことが出てしまった。

「かっこいいな……って、思って」


「フフフフフ。ありがとう。ところで明日、猫ちゃんたちのところへ行くのよねぇ?」


「はい!」

 楽しみです、と言おうとしたら……


「いきなり何匹か蹴り殺したりしては、だめかしら?」


「だめですよ! 友好を結んだんですから!」


「フフフ……。冗談よ」

 目に明らかな殺気を浮かべながら、松田さんが笑う。


 俺は釘を刺しておいた。

「むこうにはユキタローという、物凄い科学者猫がいるんです。敵意なんか見せたら猫の兵器で宇宙の果まで吹っ飛ばされちゃいますよ」


「ふぅん? そんな凄い兵器を作れる猫ちゃんがいるのねぇ?」

 松田さんのおっとりした目つきが、少し険しくなった。

「その兵器、わたくしの一撃で破壊してあげようかしら? それに、ウチの秦野はだのとどちらが優秀か、比べてもみたいものですわ」


 釘を刺したつもりが刺激してしまったようだ。


 やっぱり猫と直接触れ合ってもらわないと、猫のよさはわかってもらえないのかな。今はまだ、松田さんには猫に対する敵意しか感じられない。


 何も面倒なことを起こしてくれなければいいが……。




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面倒が起きないわけないじゃない。 だって、人間だもの。
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