ニャオンのヤオン (客観視点)
猫の町では一年に一度、ニャオンのヤオンというイベントが開催される。
喋る猫の始祖『パンジーのねこ』を讃えてのイベントであり、開催日はパンジーのねこの誕生日とされている。
しかしパンジーのねこの誕生日がいつかはわからないので、正しくは猫たちがやりたくなった時に行われ、一番多かった時では年に246回開催された。
パンジーのねこは約一万年前に地球に降臨した猫の神であり、そのねこは歴史上初めて歌をうたった猫だといわれている。
猫の町の中央広場に猫たちが集まってきた。
みんな目を爛々と丸くして、歌う気マンマンだ。
『イーきにー! ……ふんじゃ、今日もニャオンのヤオンを開催するにゃ!』
ステージに上がったマオ・ウが高らかにそう告げた。
マイクなどはもちろんない。ステージといってもちょっとだけ小高くなった丘のことだ。
ニャオンのヤオンの『ヤオン』とはもちろん『野音』──野外音楽フェスのことだが、猫の町に建造物はユキタローの家一軒しかないので、もちろん屋内音楽ホールなどあるわけもなく、単に語呂がいいからそう呼ばれているだけだった。
『るっふっふー♪』
マオ・ウが歌いだした。
それは『パンジーのねこ』が一万年前に作曲した猫の世界最大のヒット曲、『テキトーにるっふっふ』であった。
『るん♪』
『るんっ♪』
『オーウ、かしわもち♪』
みんなも声を合わせずてんでバラバラに歌いだす。
『にゃるるるる……♪』
『アー、オーウ♪』
『るっふふふー♪』
『やの、やの、やのー♪』
子猫たちも楽しげに甲高い声を発する。
『ニャー、ニャー♪』
『うにゃっ、ニャー♪』
『うにゃにゃかにゃー♪』
マオ・ウも子猫のように歌った。
『にゃーん♪ にゃーん♪ うにゃにゃかにゃーんにゃーん♪』
青い空に歌声が響き、それが夜空に変わっても続いていた。
『楽しかったにゃ!』
みんなが寝てしまったり、帰ってしまったりしたのを見届けると、マオ・ウは年に一度の猫の町最大のイベントの閉会を告げた。
『明日もまたやるにゃ!』




