3人の女
表に着陸したヘリコプターから降りてきた3人を見て、俺たちは言葉を失った。
「あー……」
「着いた」
「疲れたねっ」
そう言いながら次々と降りてきた3人は、3人ともが女性だったのだ。
今、日本列島に住む人間は、推定だが千人程度といわれている。男性がそのおよそ97%を占め、女性は3%──つまり30人ぐらいしかいないはずだ。
マコトさんを含めるとそのうち4人もがこんな山奥に集結してしまった!
振り返るとさる……山田先輩の目尻がめっちゃ垂れ下がり、鼻の下が伸びている。猫本さんもやたら顔を輝かせてニヤニヤしている。
「遅かったな、おまえたち」
青江総司令官が自慢げに言った。
「トーマちゃんが速すぎるだけでしょ」
なんだか不自然な青色の髪をした真ん中の女性が、総司令官にちゃん付けをしてだるそうに言う。
「空から見てたけどぐんぐん引き離されてたよー」
これも不自然なピンク色の髪の、背の低い女の子がヘラヘラと笑いながら言う。
「総司令官のローラーシューズは神速ですわねっ」
目に鮮やかな金色の髪の女性がニコニコしながら言う。
「トーキョー本部からようこそはるばるおいでくださいました」
山原隊長が3人に握手を求めた。
「私がヤマナシ支部隊長の山原ゴウカイです。よろしく!」
「わー……」
「田舎臭いオッサン〜」
「トーキョー本部の用務員さんに少し似ていますわねっ」
握手に応じないどころか3人がそんな悪口みたいなことを目の前で言い出したので、隊長が泣きそうになっている。
「オッサンばっか……。若い子もイモっぽい……」
「なぁに、あの鳥の巣あたま〜。くすくす」
「あっ。でも、こっちの子は結構かわいいかもっ」
金色頭のお姉さんに『かわいい』と言われ、俺は思わずテレテレとなって頭をかいてしまった。
遅れて海崎さんが基地内から出てきた。太郎丸も一緒だ。
女性3人が急に甲高い声で騒ぎだした。
「キャー! 海崎さんじゃん!」
「こんな山奥でお仕事してたんだぁ?」
「猫の首都にここは一番近いから……きっと大役を任されてたんですねっ?」
「ああ……。秦野さん、中井さん、松田さん。お久しぶりです」
海崎さんが白い歯を光らせて挨拶した。どうやら知り合いのようだ。
「それでは自己紹介を……」
隊長がなんとか威厳を取り戻し、俺たちを振り返った。
「おまえたち、お嬢さんがたに自己紹介しろ」
山田先輩、海崎さん、猫本さん、ユカイ、俺の順番で自己紹介をしたが、女性たちは海崎さんのしか聞いていなかった。
っていうか海崎さんの前にみんな集まって、俺たちのことは無視してる。
「……ちょっと、あんたたち」
マコトさんが怒りのこもった声を出した。
「お行儀悪いわよ。あんたたちもそれぞれ自己紹介しなさい」
「あー……」
「マコっちんだ」
「赤毛の山猿かと思いましたわっ」
3人が自己紹介をしようとしないので、仕方なさそうにマコトさんがそれぞれを紹介してくれた。
「こっちの青いショートボブが秦野ユイ。25歳。マッド・サイエンティストよ」
「よろしくー……」
うつろな目をして、だるそうにそう言いながら、秦野さんが一応ぺこりと頭を下げてくれた。
「そっちのピンクのツインテールが中井アズサ。17歳。サボリ魔よ」
「ひどいなぁー、マコっちん! キャハハ!」
中井さんの甲高い声にはなんか殺気がこもっていた。
「あっちの金髪ウェーブ・ロングが松田シホ。27歳。別名破壊魔・シホ」
「よろしくですわ、皆さん」
長身をしならせて、松田さんがにっこりした。
3人の女性はめっちゃ態度悪かったけど、山田先輩と猫本さんはそんなことは気にしてないようで、大歓迎の笑顔で終始ニコニコしてた。ユカイはなんだか気持ち悪いほど大人しくなって、顔を赤らめてテレテレしてる。
女性が3人もやって来たことには驚いたけど、俺はそんなことはどうでもよかった。
早く会議を始めてほしい。
トーキョー本部が猫との友好についてどう考えているのか、早くその答えを聞きたかった。