トーキョー本部から総司令官がやって来る!
俺たちNKUヤマナシ支部のメンバーたちは、それまで猫絶滅のための活動が主な仕事だったが、猫と平和条約を結んだため、そうした仕事はまったくしなくなった。
とはいえ暇なわけじゃない。食べるためにも働かないといけない。あい変わらずユカイと二人で食糧調達に森に行かされる。
「猫の町に行きてぇなぁ……」
並んで歩きながら、寂しそうにユカイが言った。
「メロン畑が恋しくて仕方がねぇ……」
突然、空から狂気を含んだ笑い声が響いた。
「ヒーッヒッヒッヒ!」
何事かと見上げたユカイの顔が、驚き、笑い、バカのように笑いはじめた。
「メロンだ!」
ユキタロー作のジェット飛行装置を背負って俺たちの頭上をさんざん飛び回ると、ようやくブリキは地上に降りてきた。
その胸におおきなメロンをひとつ、抱えている。
「ありがとう! ブリキ!」
ユカイが飛びつく。
「──俺のために! 持ってきてくれたんだな?」
ユカイの突進もヨダレもひょいとかわすと、ブリキは言った。
「てめーに持って来たんじゃねぇよ、鳥の巣頭。っていうか、人間にはメロン畑すら作れねぇのか? ザコどもが」
「……じゃ、誰に持って来たんだよ!? 海崎さんか? マコトさんか?」
「誰にでもねぇよ」
ブリキは楽しげにニヤリと笑うとジェットを噴射し、再度飛び上がった。
「おまえらをからかって遊びに来ただけだ。欲しけりゃ取ってみろ、ヒーッヒッヒッヒ!」
そんなブリキとユカイの追いかけっこを眺めながら、俺は呟いた。
「あぁ……、暇なんだな」
「待てーーっ! ブリキ! そのメロン、食わせろ!」
「バーカ! 鳥の巣頭! ヒーッヒッヒッヒ!」
「いいなぁ……、猫は、暇で」
正直、心から羨ましかった。
「人間て、なんでこんなに暇なく生きてんだろ」
(=^・^=) (=^・^=) (=^・^=)
地面に突っ伏して泣きはじめたユカイの本気に負けたのか、ブリキはメロンをそっと渡すと帰っていった。
メロンがひとつだけでもじゅうぶんな収穫だ。これだけで今夜のみんなの腹を満たせる。
とろけるような笑顔で、胸に抱きしめたメロンを見つめて歩きながら、かぶりつこうとしたので俺はユカイからそれを奪いとった。
「何すんだ、ミチタカ! てめぇ、一人でそれ食うつもりか!?」
「おまえが一人で今ぜんぶ食べちまいそうだったから俺が持つだけだよ」
「騙されねーぞ! そのメロンは俺のもんだ! 俺一人のもんだからな!」
「はいはい……」
基地に帰ると猫本さんが屋根の修理をやっていた。
高いところからこちらに手を振ってくれたので振り返した。
「おっ? ミチタカくん、持ってるのってメロンじゃないか? どっかに生えてたのかい?」
「ブリキが来て、プレゼントしてくれたんですよ」
「彼はよくやって来るなぁ。よっぽど人間が好きなのかな」
「遊びに来てるだけですよ。人間をからかって遊ぶのがあいつの最大の趣味ですから」
扉が開き、マコトさんが出てきた。
俺が持ってるメロンを見て、顔を輝かせる。
「ミチタカくん! でかした! メロンなんて3ヶ月振りぐらいじゃない! よーし、腕によりをかけて、このあたしがみんなにメロン料理を作りましょう」
マコトさんが言う通り、猫の町を離れて3ヶ月ぐらい経っていた。
みんなが再訪したい気持ちを抑えていた。猫とこれからどう接していけばいいか、わからなくなっていたのだ。
トーキョー本部がその結論を出し、指示を送ってくれることになっている。3ヶ月経ってもそれは送られてきていない。
基地の中に入ると、さる……山田先輩がマコトさんの後ろをじーっと見つめていた。
「ボン……」
手を広げ、
「……キュッ」
すぼめ、
「ボンっ」
また広げて呟いた。
基地に女性隊員がまた一人だけになってしまったので、少しだけその背中が寂しそうだ。
リッカはNKUをあれからすぐに辞めていた。
彼女の目的は、猫を絶滅させるために活動していた組織に入り込み、内側から平和工作を進めさせることだった。それが実現されたらもう用はないというように、簡単に虎のお母さんのところへ帰っていった。
はっきりいって、かなり寂しかった。
仲良くなれたと思ってたのに。もしかしたら恋仲になってくれるかもなんて、思ってた俺がバカだったようだ。
司令室に入ると、メロンを入手したことを隊長に報告しようとした。
さぞかし褒められるだろうと思っていたのだが、それどころではないようだ。
隊長と海崎さんが真剣に何やら話し合っている。
こちらを向くと、隊長が俺に言った。
「トーキョー本部から青江当麿総司令官がここへお越しになることになった。冴木隊員! おまえと轟隊員とで出迎え、ここへご案内しろ!」
「そ……、総司令官がここへ……!? な、何をしに来られるんですか?」
「もちろん、これからの猫との付き合い方をお決めになり、その指示をされるためだ。猫と直接会見した我々の話も詳しくお聞きになりたいらしい。……ところで、食糧は何か見つけたか?」
「じつは猫がメロンを一個、持って来てくれまして──」
「それはちょうどいいな。青江総司令官をそれでもてなすのだ」
ユカイが悲鳴をあげそうになったその口を、急いで俺は両手で塞いだ。




