ユキタロー・ラボラトリー
「ここにゃ!」
マオに案内してもらい、マコトさん、海崎さん、隊長、俺こと冴木ミチタカの四人はやって来た。
ほんとうは案内してもらうまでもなかった。猫の町に『家』はそれだけだったので。でもマオがあまりにも張り切って『案内するにゃ!』と言うので案内してもらったのだった。
海崎さんが建物を見上げ──いや見上げるほど高くはないのでまっすぐ見ながら、言った。
「この中で、あの白猫が、あの翻訳機やジェット噴射機、人間をバカにする銃などを作っているんだな?」
そう。ここはあの科学者猫ユキタローの家なのだ。
海崎さんはマオに向かって言ったようだったが、マオは聞かれていることに気づかず、ぼーっとしていた。
「アポは取ってあるの?」
マコトさんがマオに聞いた。
ぼーっとしているので背中を指でつっつき、もう一度聞いた。
「ねえ、マオたん。アポは取ってあるの?」
「アホを取っているとはどういう意味にゃん?」
「アホじゃないわ。アポよ」
「アホ?」
「ア・ポ」
「アッホー」
とりあえずやり取りの中で猫の世界にアポはいらないことを理解したのか、海崎さんが先頭を歩き出し、木製の小さなドアをノックした。
「あの方はなぜドアに猫パンチをしてるだにゃん?」
マオが聞くので、人間社会の礼儀だと教えようとしたけど、マオはわからずにぼーっとしていた。
「失礼。入るよ?」
海崎さんがそう言って、鍵のかかっていないドアを開けた。
「いや……。これは無理だ」
開けてから、戸口が我々には小さすぎて潜れないことに気がついた。
「ぼくが呼んでくるにゃ!」
そう言ってマオが張り切って中へ駆け込み、すぐにしょんぼりした顔をして戻ってきた。
「……いなかったにゃ」
「ぜひ、あの白猫ちゃんにお会いして、あの素晴らしい科学力の解説をお願いしたいのよ」
マコトさんがマオに手を合わせる。
「どこにいるのか、わからない? いそうな場所……」
「たぶん、らぼらとりーにゃ」
「ラボラトリー?」
「ユキにゃんはいっつも、そこで発明品を作ってるにゃ。たぶん、そこにいるにゃ」
俺とマコトさんが声を合わせた。
「「最初からそっちに案内しろよ!!」」
(=^・^=) (=^・^=)
地下にでもあったら人間は入れないな、と思っていたら、そこは広い場所だった。
研究所というので建造物の中だとてっきり思っていたら、なんと露天だったのだ。
そこには建物すらなく、ただ丘の上に大きな大きな菩提樹がぽつんと立っている。その生い茂った葉を屋根にして、ユキタローは地面の上に座り込み、毛づくろいをしていた。
目を細め、お日さまを全身に浴びて、白い毛を気持ちよさそうに風になびかせて、ユキタローはひたすらに毛づくろいに夢中になっている。
そのお腹にくっついて、コユキがころんとひっくり返り、お乳を飲んでいるところだった。
ぺろん、ぺろんと自分の手を舐めて、ユキタローは毛づくろいを続けている。
俺たちが近づいて行っても気づかないようで、コユキも手足をにぎにぎしながらおっぱいを飲んでいる。
その傍らには作りかけらしき何かの機械が置いてあった。
マコトさんが大声で呼びかけた。
「白猫さん!」
相当びっくりしたのか、ユキタローはその声を受けてひっくり返った。かけているメガネが吹っ飛んだが、コユキはおっぱいを離さなかった。
『ニャゴロ、ガオウ!』
猫語で何か文句らしいことを言いながら、ユキタローが人間語翻訳機をつけた。
「いきなりびっくりします! 猫は耳が良すぎるんですから大声で話しかけないでください!」
「ごめんね〜、白猫ちゃん」
マコトさんが猫撫で声を出しながら笑顔で近づく。
「その機械は何? 何を作ってるとこだったの?」
それは猫のてのひらサイズの、とても小さなパイナップルみたいな形の機械だった。何に使うものなのか見当もつかない。
「あなた方にはわかりませんよ」
ユキタローは怒った声のまま、言った。
「教える必要もありません」
マコトさんがあからさまにムッとした。
「まぁまぁ」
海崎さんが前へ出る。
「我々は君のその素晴らしい科学技術を見学に来たんだ。その、今着けてる人間翻訳機や、ブリキが背中に着けているあのジェット飛行器……。そのテクノロジーをどうか我々にも教授してくれないかな」
「教える必要はないと言いましたが……、言い直します」
ユキタローはきっぱりと、言った。
「あなた方に教えるべきではありません。あなた方がこんなものを知ったらどうせろくなことにしか使わないでしょう」
「なんだと?」
山原隊長が唸るような声を出した。
「どういう意味だ? 猫!」
「はっきり言いましょう」
ユキタローは隊長に怖じけず、言った。
「あなた方人間がこの力を手にしたら、地球を破壊してしまうでしょう」




