表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/129

自己紹介

「つまり、人類はこの対猫防衛機関を設置した当初は、猫を可愛いと思っていたということではございません?」


 轟マコトさんの言葉に、みんながどよめいた。


「バカな……。猫だぞ?」

 山原ゴウカイ隊長が声を震わせた。

「あり得ん! ゴキブリを可愛いと思うよりもあり得ん!」

 

「ではお聞きしますが、隊長」

 マコトさんは色っぽい目を隊長に向けた。

「この支部は猫の首都に近いですが、猫の生態の観察は行っていますか?」


「そんなもん、する必要がない」

 隊長が珍しく気圧され、タジタジしている。

「猫は人間の敵であり、わけのわからんものだ!」


「わけがわからないのでしたら、わかるように努めようとはしないのですか?」


「わかるわけがないだろう! あんなもの!」

 憎しみを込めて隊長が胴間声を上げる。

「やつらの町は遠くから双眼鏡で見たことはあるが……

あれは町なんてもんじゃない! ほぼ動物の巣みたいなもんだ!

そんなところに住む、知性のかけらもなさそうな野生動物みたいなやつらが、人間をバカにさせる光線銃なんて武器を持っている!

言わば下等動物が科学力を持っているようなものだ……。わけがわからんだろう! 意味がわからんだろうが!」


「わけがわからないからこそ、怖いのではないでしょうか?」

 マコトさんの目が少し優しくなった。

「理解に努めれば、友好も可能かと、私は思っております」


「友好だと!?」

 隊長が声を荒らげた。

「あいつら私達人間をバカにしているんだぞ!? 出会ったら有無も言わせずあの光線銃を乱射して来る!

完全に俺達を敵視してるんだ! そんなバカどもと仲良くなど出来ると思うか!?」


「だからこそ、私は翻訳機を開発したのです」


「ハァ!?」


「言葉が通じなかったからこそ、私達と猫は、長い年月に渡って敵対して来たのです」

 そう言うとマコトさんは小型のたまごみたいな形の機械をショルダーバッグから取り出した。

「これを使えば、およそ一万年前からと推定される、私達人間と猫の間の抗争を終わらせることが可能です」


「バカか!」

 遂に隊長の口が怪獣みたいに吠えた。

「君はそんなことをしにここにやって来たのか!?

とんだ期待外れだった! 一緒に猫の駆逐をしてくれるものだと思っていたのに!

帰れ! トーキョー本部へ帰ってくれ!」


「私がこちらに配属されたのはNKU最高司令官、青江当麿あおえとうまさまの御命令です」


「……うっ!」


「それに……隊長。友好というのは表向きですのよ」


「何だと?」


「友好的に近づき、猫を油断させ、マタタビ銃で根絶やしにするための」


「なるほど!」

 隊長が手をぽんと打った。

「そういうことか!」


 マコトさんがにっこり笑った。

俺にはわからなかった。彼女の言葉が本心なのか、それとも隊長をその気にさせるための方便なのか。


「とりあえず皆様、改めて自己紹介をさせて頂きます」

 マコトさんはそう言うと、胸に拳の内側を上から当て、NKUの敬礼をした。

「轟マコトです。26歳になります。趣味は料理、特技は格闘術。よろしくお願いします」


 マコトさんの敬礼が可愛くて、俺は思わず頬が緩んでしまった。

まるで太郎丸たろまるの『お手』みたいだ。


「僕は海崎リョウジ」

 すぐに海崎さんが敬礼と自己紹介を返す。

「29歳です。趣味は機械いじりと数式を解くこと。さっきも言った通り、ヤマナシ支部の技術者を担当しています。よろしくね」


「山田ジロウです」

 さる……山田先輩が挨拶した。

「41歳。副隊長をやっております」


 そういえば山田先輩は副隊長だった。あまりに貫禄がないので忘れてしまう。


「わんっ!」

 ビーグル犬の太郎丸たろまるが尻尾を振って挨拶した。


「コイツは太郎丸たろまる。仕事は主に狩猟と隊員の癒やしだ」

 隊長が犬語を翻訳するように言った。


「可愛い!」

 マコトさんはしゃがみ込むと、にっこり太郎丸の頭を撫でた。

息を荒くして太郎丸が嬉しそうに尻尾を振る。


 続けてみんなが自己紹介をした。


「猫本つよしです。36歳。主に雑用をやらされております」


 猫本さんは猫背をさらに丸めてお辞儀をするように敬礼した。

 

「花井ユカイです。24歳。歳、近いですね! エヘヘ……。役職は『下っ端』です」


 ユカイは照れ臭そうにヘラヘラ笑いながら、鳥の巣みたいな茶色い頭を掻いた。


 俺の番だ。なんとか印象づけて仲良くなりたい。


「冴木ミチタカです。ユカイと同じ24歳。趣味はフィールドワーク。植物を観察するのが好きです。特に綺麗な花を……」


「お前だけ長いわ!」


 隊長に叱られてしまった。

あれ? 海崎さんはもっと長くなかったか……? なんで俺だけ……。


「隊長を務めておる、山原ゴウカイだ」

 最後に隊長がいそいそと自己紹介した。

「年齢は50歳だが、まだまだ若い。

若いモンには負けとらんぞ。趣味は読書と説教! 特技はこう見えてカラテをたしなんでおる」


 そう言いながら、小さいけどごっつい身体で正拳突きの構えをして見せる。


「座右の銘は『人生生涯これ青春』! 私は気が若い。ゆえに頭も柔軟だ。

何でも相談してくれ。若い精神と経験豊かな知恵で何のでも力になろう!」


 隊長が一番長かった。


 しかも頭が柔軟なんて嘘だ。本当はカチカチの石頭のくせに。


 とりあえず、オレンジ色の同じNKUの制服に身を包んだみんなが自己紹介を終えると、マコトさんは改めて挨拶をした。


「みなさん、よろしくお願いします」


 美しく微笑むマコトさんに、みんながほわーんとなっているところに、デスクの上をカマドウマが跳ねた。


「でやっ!」


 ばしっ!


 一瞬、鬼神のような形相になり、カマドウマを素手で叩き潰すと、マコトさんはまたにっこりと笑った。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
下っ端が役職だと………!?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ