ブリキ暗躍(ブリキ視点)
『やあやあミオにゃん、可愛いねえ』
俺を移送していたあの猿のような人間が、ブナの木陰でミオといちゃついている。
『メロン、もっと食べる? 口移しでであげよう』
汚え口をミオに近づけ、メロンを吐き出して与えてやがる。
『あーダメやの! うちの心はマオちゃまのものやの!』
ミオのやつも嫌がっているようで、嫌がってやがらねぇ。
『でも、口づけをかわしてしまえば、あたいはもう、あなたのトリコ……ちゅ』
『エヘヘ……。いいねえ、ミオにゃん。おっぱいが6つもあるなんて、おじさん、とろけちゃいそうだよぉ』
気持ち悪りぃ……。
反吐が出そうだ。なんでどいつもこいつも仲良くしてやがる。あいつらは、人間は、この俺をバラバラにしようとしやがったんだぞ。
『おい』
俺は一緒に岩陰に隠れている子分のもんごえに言った。
『あいつらどうせ食ったら眠くなる。あいつらが寝たら、おまえ、その日本刀で全員斬って来い。猫も人間も、全員な』
『ブ……、ブリキ殿』
もんごえの野郎、なんだか怯えてやがる。
『じ……、じつは拙者のこの日本刀……、ハリボテでござる。大根すら斬れないニセモノなのでござるよ』
『なんだそりゃ』
『拙者、誰も傷つけたくないでござる。平和が一番なのでござるよ』
『腰抜けが……!』
俺はもんごえを追い払った。
『いい! 俺様が直々にやってやる!』
さて、奴ら早く眠りやがれ。
いつもは人間をアホにするだけの銃を使うが、今日は本気で殺すつもりだ。一人ずつ、首筋にこの鋭い牙を突き立ててやる。
人間は俺にとって、遊ぶための道具のようなものだった。俺を見て怖がるのが面白く、銃で撃ってバカにしてやるのが楽しかった。
しかし、奴らはこの俺様を解剖しようとしやがった。本気で殺そうとしたのだ。
後悔させてやる。追い詰められた獣がどれだけ恐ろしいものかを、死ぬ間際に思い知らせてやる。
全員が、眠った。
マオはあの赤毛のメスの胸の上でいびきをかいて、仰向けになって気持ちよさそうに寝ている。
あの赤毛のメスだけは生かしておこう。俺様の奴隷にするのだ。ゆえにマオも生かしておこう。
よかったな、マオ、運がよくてな。まぁ、支配者殺すわけにも行かねぇしな。
最後までメロンも食わずに立っていたブサイクな人間も、コユキがうまくメロンを食わせて眠らせた。まぁ、俺が指示したわけじゃねぇけど、よくやった、コユキ。
全員、眠った。
行動に移すぜ。
足音を立てないのは俺様も猫だからな、わけもねえ。
そろりそろりと近づいて行き、俺は品定めをした。どいつから殺すのが一番効果的か……。
岩石みてぇなオッサンに目を止めた。
コイツ、町に来た時、マオとなんだか握手とかいう挨拶をしてたやつだ。コイツがたぶん、人間の代表だ。
よし、まずはコイツから殺そう。
コイツさえ殺してしまえば、あとはたとえしくじったっていいはずだ。トップを殺っちまえば──人間どもは社会的動物だと聞く──脆くなるはずだ。
メロンを口の周りにつけ、呆けた顔で眠りこけているそいつに、俺は──
『おい』
飛びかかろうとした時、後ろから声がしたので止まるしかなかった。
『誰だ!? 起きてやがったのか!?』
そう言って振り返るなり、攻撃された。
髪の長い、背の高いオスの人間が、俺に向けて銃を撃って来やがった。音は静かだが、明らかに殺傷能力のある銃だ。幸い当たらなかったが、銃弾がヒゲをかすめた。
ちくしょう! この俺様としたことが、ビビらされるとは!
解剖されそうになった時のことが頭をかすめた。足がすくんじまった。いつもの俺なら、からかいながら攻撃に応じるところだが、俺の足が勝手に逃げ出した。
木に飛び登り、枝から枝へ飛び移り、必死で逃げた。
ふつうなら人間ごときの運動能力で俺を追って来ることはできない。しかし……そいつは、追って来た!
靴に何か仕込んでやがる! 人間が、靴の裏から噴射されたジェットで、空中を飛んで俺を追いかけて来やがった!
なんなんだ……、アイツは!?




