サルみたいなおじさんとあたし(ミオ視点)
猫たちが狂ってしまったやの!
マオちゃまも恐ろし人間たちの魔力にかけられたのか、人間たちと仲良くしてるやのやのやー!
あたいは恐ろしくて、苦手な強い光が見られない猫みたいに、かたくなにかたく、目を閉じておりました。とてもとても目なんか開けられるわけなし!
足もすくんでるやの。動けないやの。マオちゃま、お助け!
すると誰かが、目を閉じてぶるぶる震え中のあたいに、話しかけてきたのです。
『お嬢ちゃん、どうしたの? メロン、食べないの?』
おっきな声でした。猫とは思えぬ、まるでみっちゃんやリッカ様みたいな、珍しい種類の猫みたいな、広い腹筋から響くような声でしたやの。
おっきいけれど、優しき声の主。
これは誰?
あたいはおそるおそる、目を開けてみたやの。
すると目の前にメロンを持って立っていたのは、おさるさんでした。
おさるさんとはたまーによくよく挨拶をするぐらいやので、よくは知らんのやけど、まさか喋れるおさるさんがいるとは、これ、いと珍し。
いや、違うかもやね。これ、よく見たら、みっちゃんやリッカ様と同じ種類のねこやのやね。だって頭のてっぺんにしか毛が生えてござらん。
あたいは聞いてみたのやの。
『おじさんは、だぁれ?』
するとおさるのおじさんは答えたのやの。
『僕は山田ジロウという者だよ。よろしく、お嬢ちゃん』
にっこり微笑んだその口元にびっしりついたメロン汁がとても美味しそうでした。
あたいはその長すぎる名前が覚えられなくて、発音もできなくて、こう言うしかありません。
『やのやのやのやの……』
『お嬢ちゃん、かわいいねぇ』
おさるさんが目尻を美しく下げられて、あたいを攻撃的に見つめてこられました。
『かわいいねぇ、かわいい。じゅるるるる……』
だめやの。
このおさるさん、あたいの好みのタイプやの。
じっと見つめる猫は喧嘩を売ってるか求愛してるかのどっちかのやのやけど、こんな激しい、攻撃的な、でもあからさまに求愛してる視線……あたい初めて! 抗えませんわ! やの。
『おいで』
おじさんが両手をあたいの脇の下に入れて、抱き上げてきました。
『あっ……』
あたいは思わずはしたない声をあげてしまいました。
『……やん』
『かわいい、かわいい』
おじさんが言葉を尽くしてあたいのことを褒めてくれるの。
会ったばかりだけど、初めて会ったとは思えない、ときめき。
だ……、だめやよっ、ミオ! あたいは……
『キスしてもいい?』
おじさんが言いました。
『その唇、たまらない』
だめっ!
あたいは……あたいはマオちゃまのものにゃんだからやっ!
でもおじさんは強引にその逞しき唇を近づけてきたのやの。
ああっ……!
ごめんね、マオちゃま!
うう……るるるるるる……ぶちゅぶちゅ……レロレロ……ざりざりざり……
熱烈な口づけでしな。
あたいは心までメロメロメロンに溶かされてしまいましな。
よく見ると、やって来た人間様たちは、皆おじさんと同じ姿をされてる……。
人間て、これだったのやの。
これ、人間やったのやの。
知らなかった……。
人間て、いと素敵♡




