人間と猫の首脳会談
この回から『自動ルビ振りアプリ』を使いはじめました。
ルビがうるさいかな等感じましたら遠慮なくお申しつけくださいm(_ _)m
朝、海崎さんの作った8人乗りの車に乗って、猫の町へ出発した。
車から武器はすべて取り外してある。
猫を刺激しないようにと、隊長命令で外してくれた。隊長も海崎さんも、猫を馬鹿にした発言をしながらも、内心猫を怖がっているのだろう。
実際俺も、マオと仲良くなっておきながらも、やはり猫達の秘めているポテンシャルが未知数なことには恐れのようなものを抱いていた。
なぜ、あんな原始的な、動物そのものの生活をしている猫が、人間をバカにしてしまえる銃だとか、空を食べるジェット噴射機だとか、果ては人間が作ったものよりも高性能な翻訳機を作れてしまうのか。
「見えて来たぞ」
緊張した声で山原隊長が言った。
「猫の町だ」
町──とはいっても、それはただの自然の風景に過ぎない。
木や地面、岩などに穴を掘って猫達は家として使っている。
たまに建造物もあるが、たとえば『塀』は仕切りとして使用されるものではなく、単に猫が風通しのいい寛ぎの場所として、たむろする目的で作られているようだ。
到着日時は伝えてあるはずだが、俺達を歓迎して出迎えてくれている猫の姿は一匹もなかった。
まぁ、ガタゴトと大きな音を鳴らし、砂埃をあげて走ってくる車のことを怖がっているのだろう。
しかもその中には彼らが恐れている人間が乗っていると知っていれば、姿を見せないのも当然だ。
……いや、どうやらわかっていなかったようだ。車の気配を感じて初めて慌てて逃げ出す猫達の姿が遠くにいっぱい見えはじめた。
やはり出迎えてくれる猫は一匹もいない。
……せめてマオだけでも歓迎しに出て来てくれてもいいんじゃないか?
町の広場に車を停めた。
あたりはしーんとしている。
木の陰や塀の陰からこちらの様子を窺っている猫達が息を殺しているのはわかった。
「おい……。様子がおかしくないか?」
海崎さんが胸に隠した銃の柄を掴みながら、言った。
「何かの罠か……? これは……」
「にゃーっ!」と、大きな声が向こうのほうから聞こえた。
みんながビクッとしてそちらのほうを向くと、遠くのほうから手足全部を使ってマオが全力疾走して来るのが見えた。
隊長と海崎さん二人だけが動揺した。
「なんだあれは!」
「鉄砲玉か!?」
リッカがマオに向かって叫んだ。
「マオ厶! にゃんちき! にゃんちき!」
そう猫語で叫びながら、自分の耳と口を指差してジェスチャーする。
「なー!」
マオが少し離れたところでズザザー!とブレーキをかけて停まった。リッカに向かっておおきくうなずいた。
「なうる、にゅきら、にゃんにゃん……」
そう呟きながら、上着のポケットから、人間語翻訳機を取り出し、装着してる。
俺達人間は皆、マオがそれをつけ終わるまで、じーっとそれを見つめていた。
「ついたにゃん!」
やっとそれを装着したマオが、人間語で声をあげた。
「来るの、今日だったかにゃん! すっかり忘れてただにゃん! ようこそ、猫の町へ!」
「ようこそいらっしゃいました」
そう言って、塀の陰からメガネをかけた白猫が出て来た。
「ボクは賛成しなかったんですけどね……。でも、マオが首脳会談に応じたのなら、仕方ない」
そう言って白猫は、マオの傍らにぴったりと寄り添った。まるでマオを守るSPのように。
「ウニャニャニャニャーーッ!」
そんな叫び声をあげながら、もう一匹現れた。
紫色のすらりとした長身の猫だ。
「マオラララーーッ!」
「ビキにゃんは無理しなくていいだにゃん」
マオがその猫に言った。
「怖いなら隠れているがいい。ぼくにゃんとユキにゃんだけで人間様達と遊ぶからぽん」
しかし紫色の猫は目を血走らせ、俺達のことをとても恐れていることが丸わかりなのに、無理やり自分を奮い立たせてマオの前に立ち塞がった。どうやら『オレがマオを守る』と言っているようだ。
あれ……?
こんなふうに猫達がマオを守るのって……なんか変じゃね?
まさかマオが本物のマオ・ウなわけあるまいし……。本物のマオ・ウは出てこないのか?
出てこいよ、本物のマオ・ウ。地球の支配者にして、人間を苦しめる元凶の、悪名高いマオ・ウ。凶悪なその姿を俺らの前に見せてみろ。
「……本日は我々人間との首脳会談に応じていただき、感謝する」
山原隊長が緊張した声で言った。
「私がNKUヤマナシ支部の隊長を務めるヤマハラだ。本来なら東京本部の青江総司令官が来るべきところだが、遠いのでね。代理として私が来たことを許したまえ」
ほんとうは青江総司令官はまだ何も知らない。報告していないのだ。
「君達猫側の大将は誰かね?」
山原隊長が白猫に聞いた。
「地球の支配者マオ・ウというのは、どなたかね?」
「この子です」
白猫がマオを指差した。
「ぼくにゃん!」
マオが片手を元気よくあげた。
「は……?」
俺は思わず声をあげた。
「ほんとうに、おまえが、あの、マオ・ウだったの!?」
「いや……。ちょっと待ってくれ」
海崎さんが生唾を呑み込みながら、声を出した。
「さっきからなぜ言葉が通じてるんだ? 僕達は猫語翻訳機を使っていないというのに……?」
隊長はボケなのか、そんなことには気づいていないようで、偉そうに胸を張りながら、マオに手を差し出した。
「本日はよろしくな! 猫。握手をかわすぞ」
「?」
握手を知らないらしく、マオが大きな首を傾げる。
「おててとおててをね、合わせるの」
リッカがそう教えると、マオが楽しそうに笑った。
「まずはそういう遊びかにゃん? 楽しそうだにゃん。えいっ!」
そう言いながら、マオが隊長の差し出したてのひらに猫パンチをした。
「ツメをひっこめてるから痛くはなかろうにゃ? さ、遊ぶにゃ!」
マオがそう言うと、好奇心で目を爛々と輝かせながら、町の猫達がぞろぞろと俺達の周りに集まって来た。




