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もしも地球の支配者が猫だったら  作者: しいな ここみ
第一部 人間 vs 猫

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新入隊員

 作戦会議室に全員集まった。

 山田先輩も、マコトさんも、全員だ。


 山原隊長が全員を前にして、言った。


「今日入った新入隊員をみんなに紹介する」

 その顔はいつものように厳つく作っているが、なんだか内心嬉しそうだ。


「え……。新入隊員?」

 俺の隣でマコトさんが言った。

「聞いてないわ。ミチタカくん、知ってた?」


「ええ……。まあ……」


 俺だけじゃなく、ユカイも山田先輩も、猫本さんも知っている。

 知らないのはマコトさんと海崎さんだけだ。

 海崎さんのほうを見るとやはり「ん?」というような顔をしていた。


「橘リッカくんだ」


 隊長がその名を紹介すると、銀色の自動ドアが横に開き、オレンジ色のNKUの制服に身を包んだリッカが、ぺこりとお辞儀をしながら入って来た。

 ピチピチの制服を着ると、その細さが目立つ。だがそれがかわいい。


「え……!」

 マコトさんが小さく声をあげた。

「誰? どっから来たのよ?」


 隊長が紹介する。

「橘くんは冴木ミチタカ隊員の古い知り合いだそうだ。若いのに言語学者をやっていて、その能力を活かすためにここで働きたいとのことで、ちょうどよかったので緊急に採用することになった」


 よかった……。隊長、俺の言った嘘を疑わず信じてくれてる。


「橘くん、自己紹介しなさい」

 そう言いながら隊長がすけべな笑いをちょっと漏らし、リッカの小さなお尻を叩こうとして、なんとか自粛してくれた。


 リッカが明るい月のように微笑み、自己紹介をする。

「初めまして、みなさん。橘リッカといいます。東京で言語学を学んでいました」

 意外になかなかスラスラと嘘を言える子だった。

「歳は19。趣味は動物と遊ぶこと、特技といえるものはありませんが、足の速さには自信があります」

 これは嘘ではなさそうだ。


「19……。若いわね」

 マコトさんが爪を噛みながら呟くのが、隣の俺にだけ聞こえた。

「でも……色気のかけらもない子ね」

 なんかよくわからないけど悔しそうだ。


「そして……みんな、驚くなよ?」

 隊長がリッカの特技を補足した。

「橘くんは、なんと猫語を話すことが出来る」


「そうなんですか!?」

 海崎さんがさすがに驚いて声をあげた。

「まさか……。いや……、そんな……。どこで覚えたの?」


「東京に猫語を研究しているところがあるんです」

 リッカがまたもや嘘話をスラスラと言う。

「極秘の研究室なんですけど、私はそこにいました」


「そんな研究を? 何のために?」

 海崎さん、ごめん。そんな研究室、本当はない。


「あそこにいたのね。あたしの猫語翻訳機もそこに協力してもらって作ったんだけど……。あんな子、いたかしら」

 マコトさんが知ってた! その研究室、実在してた!


「ところでみんな」

 隊長が話を変えた。

「山田副隊長がここにいること、不思議に思ったことと思う」


 自分の話になり、さる……山田先輩が緊張を顔に表し、猿のように頭を掻いた。


「山田副隊長は捕獲した猫を東京本部へ移送する途中、猫の大群に襲われ、貴重な生態データとなるはずだったあの猫を逃してしまったらしい」


 さる……山田先輩が反省を露わにシュンとした。


「だが、そこからがお手柄なんだ。山田副隊長は見事にそれをフォローした。

 そこへちょうど冴木ミチタカ隊員を訪ねて来ていた橘リッカくんが通りかかったんだそうだ。

 猫どもは山田副隊長を襲い、殺そうとしていたらしい。

 彼女はそれを見つけて、猫語で止めに入ったのだ。

 そうしたら……どうなったと思う?

 馬鹿な猫どもは、猫語を喋った橘リッカくんのことを、珍しい種類の猫だと思ったということだ!」


「いや……まさか。あり得ないでしょう、いくら猫が馬鹿でも」

 ごめん、海崎さん。そこだけは本当の話なんだ。


 隊長が続ける。

「そこから山田副隊長が機転を利かせた。さすがは副隊長といったところか。

 ちょうどその猫の大群の中に、あの悪名高き暴君、マオ・ウがいたんだ!

 副隊長は橘リッカくんに、マオ・ウに『和平会談を開きたい。人間を猫の町に招いてくれ』と言うようにお願いしたんだ。

 マオ・ウは人間が降伏し、猫の支配下に入ることを条件に、その話を呑んだのだ。

 作戦を伝える! 明朝8時、猫の町に偽の和平会談を行うため入り込む。そこでヤツらが珍しい種類の猫だと思い込んでいる橘リッカくんを盾に、猫どもを殺しまくるのだ!

 殺して、殺して、殺しまくれ!

 そしてマオ・ウの首を取るのだ! 敵の大将を討てば我ら人間の勝利だ!

 明日を人間のための地球を復興する記念日とする!」


 俺はみんなの反応を見た。

 海崎さんは何やら黙って考え込んでいる。

 後はみんな既に『人間と猫の友好を望む同盟』のメンバーだ。隊長と海崎さんを騙して和平条約を結ばせる計画だが、それぞれの志はどうなんだろう?


 さる……山田先輩はひたすらホッとしていた。隊長への言い訳がうまく行って嬉しそうだ。まぁ、本当に心からマオのことが好きみたいだし、これでリッカに恩が出来たのもあって、本気で猫との友好を望んでくれるだろう。


 ユカイはメロンさえ食べられればそれでいいみたいだ。声は出ていないけど、ずっと「メロン」の形に口をうごかしている。猫を殺してメロン畑を独占しようともしかねない。要注意だな……。


 猫本さんは優しいから、まぁ疑う必要はないだろう。


 問題はマコトさんだ。マオとめっちゃ仲良くなってるみたいだったけど、この人、裏表があるし、何より性格キツいからな……。

 俺は隣のマコトさんの表情をチラリと窺った。


 マコトさんはなんだかリッカのことを頭のてっぺんからつま先までジロジロと観察するように見ていた。


 うーん……。


 心が読めない。



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― 新着の感想 ―
そう言えばまだマコトはリッカと会ってなかったのか。 リッカ、お母さんは何処かで待機中かな?
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