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NKU

「なんだと? 猫に襲われただとッ!?」



 俺の報告を受けると、山原ゴウカイ隊長は太い眉毛を吊り上げて激怒した。


 当然だ。猫に光線銃で撃たれて隊員一人がバカにされた上に、

ユカイの介抱に付きっきりになっていたため、食糧を何も採って来られなかったのだから。



 しかし隊長は意外にもあっさりと、機嫌を直した。


「まあ、いい。もうすぐ期待の新人がやって来る。

とどろきマコト。彼がきっと、このNKUの強力な戦力となってくれよう」

 そして正直に言った。

「何しろ現在のメンバーは私と海崎かいざきリョウジを除き、役立たずばかりだからな! 

役に立つ部下が欲しかったのだ、私は! 喉から手が出るほど欲しかったのだ!」


「ごめんなさい」

 俺は思わず頭をぺこりと下げた。




 報告を終え、司令室を出ると、さる……山田先輩と猫本さんが聞き耳を立てていた。

俺と隊長の話を盗み聞きしていたようだ。


「新人って、そんなに凄いのか」

 山田先輩が聞く。


「エリートなんだって?」

 猫本さんが言う。


「来たらいびってやろうぜ」


「先輩風吹かせまくってやろう」


「そうですね」

 俺はそんなことには興味がなかったので、さっさと自分の部屋に戻った。




 ベッドでユカイがまだ寝ていた。帰る時にはなんとか歩けるようになっていたのに。


「大丈夫か? ユカイ」


 俺が声をかけると、顔を起こした。その口がガタガタと震えている。


「消えねーんだ……恐怖が」

 泣きそうな目をして、言う。

「あの恐ろしい猫の笑った顔が……脳に焼きついて離れねー……。

どうしよう、俺……、立ち直れるかな……」


 俺は優しく微笑んでやると、言った。

「怖いのは俺も同じだよ。でも、見ろ、俺は戦う気満々だ。

恐怖よりも、憎しみを強くしてるんだ。

絶対に猫から地球を取り戻す。そう強く思ったら、恐怖が飛んで逃げて行ってくれるんだ。お前も……」


 続きを言いかけた時、さる……山田先輩の声がドアの外から聞こえた。

「新人到着したぞ! 全員、司令室に集合!」



(=^・^=)  (=^・^=)  (=^・^=)



 司令室に入った俺もユカイも、驚きに開いた口が塞がらなかった。


「トーキョー本部よりウチに転属になった、とどろきマコトくんだ」

 隊長が鼻の下を伸ばして、みんなに紹介した。


とどろきです。よろしくお願いしますね、先輩方」

 名乗った声は、艶めかしいメゾソプラノだった。


「お……、女……!」

 ユカイが声を漏らした。


 とどろきマコトは肩までの赤い髪を揺らし、

妖しげな色香を浮かべてみんなを視線であっという間に恋に落とした。


 長身に俺達と同じピッチピチのオレンジ色のスーツを身に纏い、

山あり谷ありのボディーラインが丸わかりだ。


 さる……山田先輩が俺の隣で鼻血を噴いてぶっ倒れかけた。

猫本さんが何やらしきりに「……ぱい、乙ぱい」と譫言うわごとのように繰り返している。


「女で何か、悪い?」

 ユカイの言葉を耳にすると、轟さんは急にムッとして、眉間に皺を寄せた。

「悪いけど仕事は出来るわよ。君よりも、きっとね」


「いや、そんなんじゃ……」


 ユカイは何か言いかけて、黙った。


 ユカイよ、お前の言いたいことはわかる。びっくりするのはあたりまえだ。

俺達、ここにいる全員、初めて見たのだからな、人間の女を。


「トーキョー本部ではどんな仕事をしていたのかね?」

 いつもしかめっ面の隊長が珍しくソワソワしているのを隠しきれない声で聞く。


「全般ですわ、隊長」

 エリート隊員、轟さんは得意げにでもなく、淡々と言った。

「猫社会の監視、データ収集、お料理、裁縫、戦闘員としても働けますし、科学技術者としても……」


「技術者でもあるの?」


 長身イケメンでウチの支部で唯一の有能隊員、海崎かいざきリョウジさん(29歳)が声を挟んだ。


「ええ。それが何か?」

 イケメンを見ても轟さんは揺るがない。


「オレもここの技術者なんだよ。よろしくね!」

 爽やかな笑顔で海崎さんが握手を求める。

「何か轟さんが開発した発明品とか、ある?」


 海崎さんは天才だ。

デコボコ道をすいすい走れる自動車とか、猫をフニャフニャにできるマタタビ銃とか、

色々便利なものを発明してる。

あの時は突然すぎたので、猫にこの腰のマタタビ銃を浴びせてやることが出来なかったが……。


 毅然とした表情で握手に応えながら、轟さんはにっこり笑うと、質問に答えた。


「猫の町を空の上から観察できるカメラを現在開発中です。

それと、猫語の翻訳機を開発し、本日、持って参りましたわ」


「猫語の翻訳機だって!?」


 その場にいた全員が驚いた。信じられんという顔をした。

そりゃそうだ。一体誰が猫と言語を通じてコミュニケーションを図ろうだなんて思う? 

それはゴキブリと仲良くしようというのと同じだ。


「そんなもん……何の役に立つのかな?」

 顔を引き攣らせて海崎さんが聞いた。


「このヤマナシ支部はもっとも猫の国の首都に近いNKUの支部ですよね? だからこそです」

 轟さんはみんなの顔を見渡した。

「ところでみなさん、NKUが何の略かはご存知ですよね?」


 みんなが沈黙した。山原ゴウカイ隊長までうつむいた。

誰も知らなかったみたいだ。かくいう俺ももちろん知らない。

何だっけ。『NKU(猫殺すウンコ)』だろうか?


 すると轟さんがみんなに教えてくれた。

 

「猫が 可愛いだなんて うそみ隊」


「へ?」

 みんなの目が点になった。


「『N=猫が、K=可愛いだなんて、U=嘘み隊』なんです」


「うっそーん!」

 さる……山田先輩が声を上げた。





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猫が 可愛いだなんて うそみ隊 > こ、この昭和的センス!
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