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もしも地球の支配者が猫だったら  作者: しいな ここみ
第一部 人間 vs 猫

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朝(轟マコト視点)

 いつの間にか眠ってしまっていたようだ。


 目を覚ますと、どうやら朝のようだった。

 嵐は一晩中続き、あたしともふもふの誰かはずっと抱き合って雷の恐怖を分かち合い、疲れていつの間にか眠っていたらしい。


 あたしは壁にもたれかかった姿勢で眠っていた。

 ふと見ると、胸の谷間に彼がいた。


 思った通りだった。


「……やっぱりあなただったのね」


 オレンジ色の猫……マオ・ウは、雷に怯えることに疲れ果てて、ぐっすりと眠っていた。

 怖くて泣いたのだろう、目尻の毛に涙の跡がついている。

 横腹をゆっくりとした呼吸で揺らし、たまにいびきをかきながら、呑気な寝顔を晒している。


 あたしはそっと手を伸ばすと、その小さな額に触れた。

 あったかい。やわらかい。もふもふしてる。


「もっ……もう食べれないにゃ〜」

 人間語で寝言を言った。

「ヌシさま……でかすぎるにゃ〜……」


 見ると耳と口元に小型の機械をつけている。巧妙に猫の顔にフィットする形に作られたイヤホンとマイクだ。これが人間語翻訳機なのだろう。猫本さんが言ってた通りだ。

 あたしの作った猫語翻訳機よりも技術が高度だ。


 これを奪って解析すれば……あたしだってこれぐらいのもの、作れるはず。


 イヤホンを取り出そうと、触るとマオ・ウの耳がぴくぴく動いた。

 大きな三角の耳が、まるで別の生き物のように、あたしの指の刺激で勝手にぴくぴくしてる。


 ……面白い。


 さらに面白いものを発見した。マオ・ウの前脚を手に取る。その足の裏に、なんとも面白いものがついている。


 肉球だ、これ。

 これが肉球か……。


 あたしが触りまくっているのでマオ・ウのしっぽがパタパタと動き出した。それが制服の前のチャックを開けたあたしの素肌に当たる。あたしの上乳に当たってぽよんぽよんする。


 パタッ、パタッ……


 ぽよん……ぽよん……


 なんか素敵なハーモニー。


 マオ・ウが、目を開けた。

 巨大な瞳があたしを見つめた。気持ち悪い。


「おはようにゃん」

 無邪気に言った。


 あたしの胸上から膝の上に飛び降りると、背中をそらせてあくびをする。

 思わずあたしがしっぽの付け根を撫でてしまうと、なんだか気持ちよさそうな動きをした。


「マオ・ウ……」

 ようやくあたしの口から声が出た。

「あたしが怖くないの?」


 彼は機嫌よさそうな顔で振り向くと、呑気な声を出す。


「一晩抱き合ったではないかにゃんにゃんにゃん。昨日の敵は今朝のうぅ……腹減った」


「貸しが出来てしまったわね」

 いつもの自分を少しだけ取り戻して、あたしは言った。

「昨日は……ありがとう。あなたのお陰で怖さがやわらいだわ」


「それはぼくもだにゃん! あなたのお胸は、まるでふかふかの綿ゴムのベッドのよう……ところでお腹空いたにゃん」


「この小屋には何もないわよ」


「それがあるではないかにゃんにゃんにゃん!」


 マオ・ウがあたしの手首を指差す。

 そこには対猫用秘密兵器『かまぼこ発射機』が、外すことも忘れてついていた。


 あたしはそれを『ドギュッ』という音とともに発射した。

 半円形の大型のかまぼこが、クルクルと回転して飛び、壁に当たると、べちゃっと緑色の絨毯の上に落ちた。


 たっ! と駆けて行き、マオ・ウがそれを食べはじめる。

 馬鹿な猫。やはり猫は馬鹿ね。

 それに毒でも入っていたらとか思わないのかしら。

 まぁ、毒なんかで殺しても面白くないから、そんなもの入れてないんですけどね。


 あぐあぐと音を立てて、あっという間にかまぼこを食べ尽くすと、マオ・ウがこっちを見てにこっと笑った。


「美味しかっただにゃん! こんな美味しいものをどうもありがとにゃん!」


 猫の笑顔って気持ち悪い。子供の頃好きだったウサギさんのぬいぐるみを思い出した。笑顔の貼りついたぬいぐるみだった。あれがもし動いたらこんなふうに気持ち悪いのだろう。


「お膝に乗っていいかにゃん?」

 そう言いながらマオ・ウが近づいて来る。

「そこでぜひ、毛づくろいをさせておくれませ」


「どうぞ」

 貸しがあるから仕方ない。


 肉球をぷにぷにさせながら膝の上に乗って来た。

 不思議ね。なんか落ち着く。

 まるで大昔からあたし達はセットだったみたい。

 失くしていたものが然るべきところにセットされた──そんな気持ちがした。


 マオ・ウの背中の毛を撫でたりつまんだりしながら、あたしは言った。

「人間と猫の首脳会談、申し込むわ。受ける?」


 マオが答える。

「意味がわかりません」


「意味が……?」


 猫は背中をあたしに向けたまま、両手をヤケクソみたいに広げて主張した。

「ミッちゃんもリッカもそれ言ってたけど、ぼく、意味はさっぱりわかってないにゃ! 何をするにゃの?」


 やはり馬鹿ね……。


「あなたは猫の王なんでしょ? 人間の王……代理になるけど、ウチの隊長と猫の町でお話をしてほしいの」


「それは楽しそうだにゃん!」

 目をキラキラさせて振り向いた。

「ミッちゃんもリッカも猫の町に来るの? それは楽しそうだにゃん! 何しよう、何して遊ぼう!」


 リッカって誰だろう?

 知らないけど、どうやら首脳会談に応じてくれるようだ。

 あとは山原隊長の説得は……もう必要ないわ。海崎さんと二人で話は合わせてある。


 ウフフ……。


 楽しい訪問になりそうね。


 だってあたし、マオのことが大好きになっちゃったんだもん!



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― 新着の感想 ―
まさかの宗旨変え!? 鬼神の如くネコと戦った女が!あっという間にネコLoveに!! まあ、平和でいいわな。
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