表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
もしも地球の支配者が猫だったら  作者: しいな ここみ
第一部 人間 vs 猫

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

36/129

猫憎し(轟マコト視点)

 あたしの名前は轟マコト。


 女盛りの26歳。恥ずかしいけどスリーサイズも言っちゃおうかな。上から92、56、86よ。……体重? 言うわけないでしょ。


 赤いショートボブがあたしのセクシーさを引き立ててると思わない? あらオカッパじゃないわよ、これはショートボブ。ショートボブなの!




 猫本さんから昨日その話を聞いた時、あたしはチャンスだと思った。


「マコトちゃん。山田副隊長以下2名の隊員が猫によって洗脳されていることを確認した」


 最初に猫本さんがそう言って来た時はさすがに頭がイカれてるのかと思ったけどね。

 でも、次第に信頼できる情報であることがわかってきた。

 それが本当だと初めて確信できたのは、ミチタカくんがあたしを散歩に誘って来た時だったけど。


 何より猫本さんが言うには、ミチタカくんが猫の王であるあのマオ・ウと仲良くなってるって言うじゃない。

 猫本さんのボケの嘘情報である確率のほうが高かったけど、もしそれが本当なら、これは絶好の機会だと思ったわ。

 マオ・ウを殺せば、猫社会はガタガタになるはずよ。


 でも、猫本さんは猫の町で、猫と人間との首脳会談を行うつもりだと言う。

 自分では山原隊長からの信頼がないから、あたしにミチタカくんたちの裏切りをこの目で見て、それをあたしの口から隊長に伝えてほしいのだと。

 最初はあたしもその計画に乗ったわ。

 猫の町に入り込んで、和平会談に臨むと信じ切って油断している猫どもをかたっぱしから殺す。

 マオ・ウを殺るのもその時でいい。

 そう思ってた。


 でも、ミチタカくんについて行って、草をかき分けた先に、あたしの目の前に、マオ・ウがいたのよ?

 しかも意外なぐらいにアホ面した、ひと蹴りで瞬殺できそうな弱そうなやつだった。


 さっさと蹴り殺したくなるじゃない?


 あたしは猫が殺せるかもしれないと知ったその朝から、秘密兵器を作りはじめてた。

 猫を油断させるための、かまぼこ発射機。

 いい匂いのするでっかいかまぼこを猫の前に発射して、それに猫がつられて無防備になったところを蹴り殺すの。

 即死させるような武器なんかあたしは作らない。

 この足で蹴り殺してあげなきゃ気が済まないもの。


 まんまとマオ・ウはかまぼこにつられて立ち止まってくれたわ。

 あたしはそこに歓喜の声をあげながら蹴りを放った。

 でも、猫本さんがあたしを止めたの。



「やめるんだ、マコトちゃん! 計画を台無しにする気か!?」


 そう言う猫本さんごと蹴り飛ばしてやったわ。


「げぼぅ!」


 そう叫びながら猫本さんが吹っ飛んでいった。


 猫は?


 マオ・ウは? 仕留めた?


 だーっ! と向こうへ駆けて行くやつの後ろ姿が見えた。


「逃がすか!」


 あたしはそれを追いかけ、走った。


「マコトさん! ……マオ!」


 ミチタカくんのそんな声が聞こえたけど振り返らなかった。マオ・ウと内通してたなんて、あとでお仕置きね。






「ちっ……! 逃げ足の速い……!」


 見失ってしまった。


 猫探知機が必要ね。今度作ろうかしら。


 でも今はそれどころじゃない。せっかくお会いできた猫の王、マオ・ウが近くにいるの。なんとしても見つけ出して、殺さなければ。


 幸いこのあたりは木が疎らで、隠れるところはそうないはず。

 小さい体を繁みに隠してるかもしれないから注意深く、探すの。生体反応を感知するメガネをかけて来てよかったわ。

 でもウサギとかタヌキが紛らわしい!

 どこ? どこに逃げたのよ、マオ・ウ?


 探して歩いているうちに、ぽつぽつと雨が降り出した。

 やめてよ! 濡れたらメイクが落ちちゃう!


 雨宿りできるところを探して走った。

 木が疎らなのがさっきまでは都合がよかったけど、今はムカつく。

 こんな頼りない木ばっかり生えてたら雨をしのげないじゃない!

 どんどんどんどん天気は悪くなって来る。東京と違って山の天気は変わりやすいのね。

 あっという間に嵐になるのね!

 雷が鳴りはじめた。

 やめてよ! こう見えてあたし、か弱い女性なんだから!

 苦手なもの、多いんだから!


 ピカッ!


 ゴロゴロゴロ……


「きゃあーーーっ!」


 頭をおさえ、悲鳴をあげながら逃げ続けてると、救いの神のようなものを見つけた。

 疎らな木立のむこうに、何やら建造物。

 山小屋だ!

 あそこに逃げ込むしか……!




 幸い入口に鍵はかかっておらず、すんなりと中に転がり込むことができた。


 しっかりとした造りのログハウスだった。しかも結構広い。


 誰が建てたんだろう? NKUの所有なんだろうか? 聞いたこともなかったけど。


 中には緑色の絨毯が敷いてあるだけで、他には何もなかった。誰かが使った形跡もない。


 まぁ……、いいわ。雨と雷さえしのげれば。山の天気は変わりやすいんでしょう? なら、どうせすぐにまた雨もやむでしょう。

 それまでここにいて、雨がやんだら基地へ帰ろう。


 マオ・ウは逃したみたい。あたしとしたことが気が逸ったわ。やはり猫本さんの言う通り、罠の首脳会談を開くのが確実で、正解ね。


 猫本さんがなぜマオ・ウをかばったのか……。いいえ、あれはかばったわけじゃない。あのぽわぽわした弱そうな猫が本当にマオ・ウなのかどうか、疑っているのよね。確かに、影武者かもしれなかった。あたしとしたことが……本当に気が逸ってしまい、失敗したわ。


 基地に帰ったら、猫本さんに説得されて改心したふりでもしよう。ミチタカくん、能天気だから、それで騙されてくれるわ。


 そして海崎さんと隊長と、話を合わせて……


「きゃあっ!」


 目の前にいきなり蜘蛛が降りて来て、思わず悲鳴をあげてしまった。


 怖いのよ、怖いの!


 あたし、ほんとうは、世界が怖いものでいっぱいなの!


 外では雷が鳴ってるし、小屋の中はよく見たら蜘蛛の巣だらけだし……


 助けて!


 助けてよ、ミチタカくん!


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
まさかのか弱いアピ~ルだと!? でもそれを信じられないワタシがいる。いや、ひとりしかいないんだし、演技なんてしないとは思ってるんだけど。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ