マコトさんを攻略せよ!
マコトさんは最近ずっと研究室に閉じこもり、何かを作っていた。
なんだか大型の腕時計のようなものだが、何かはわからない。
あまり身だしなみを気にしている暇もないようで、赤い髪がバサバサになっている。
そんな彼女の後ろから、俺はにこやかに声をかけた。
「マコトさん。あまり閉じこもってばかりじゃ気分が病みますよ? よかったらこれから一緒に散歩でもしませんか?」
マコトさんがうるさそうな顔をして振り向いた。黒縁のメガネをかけていた。それをはずすと、にっこりと微笑んでくれた。
「いいわね、ミチタカくん。案内してくれる?」
「案内?」
「ええ。景色のいいところへ、ね」
「いいですよ。わかりました!」
外へ出ると、マコトさんと並んで歩いた。
やっぱりこの人はいい匂いがする。
リッカの透明な月明かりみたいな美しさもいいけど、マコトさんの薫り立つ毒花のような美しさもやっぱり素敵だ。
もしも一緒に子作りしようと言われたらどちらにしようかな、と考えていると、マコトさんが言った。
「外はやっぱりいいわね。天気はちょっと悪いけど、気が晴れるわ」
そう言いながら、右手首に装着した機械を撫でている。さっき研究室で作っていた、あの大型の腕時計のような機械だ。
俺は聞いた。
「それ……、何ですか?」
「対猫用秘密兵器よ。ちょうど完成したところだったの」
「そこから破壊光線でも出るんですか?」
「内容は教えられないわ。教えちゃったら秘密兵器じゃなくなるもの」
「なるほど……。そうですね!」
「ところでどこへ行くの?」
そう聞かれて、俺は少し口ごもった。
いけない、いけない。自然にふるまってなきゃ、怪しさのないようにしていなければ、マコトさんに逃げられてしまう。
「景色のいいところを知ってるんですよ。こっちです」
俺が先頭に立ち、草をかき分けて進んだ。
この先に山田先輩とユカイと猫本さんと、そしてマオが待っている。
しかし……まずいな。マオを見るなりマコトさんが秘密兵器をぶっ放したらどうしよう。
よし、まずはマコトさんの視界を俺が塞ごう。マオを俺の後ろに隠して、マコトさんが山田先輩たちと話しているうちにマオを抱き上げて、その状態で話をするようにしよう。
まさかマコトさんでも俺ごと攻撃することはないだろう。
背の高い草をかき分けると、ユカイのアホ面が見えた。
山田先輩がマオを抱いて撫で回していた。猫本さんが少し離れたところに立っている。
俺はさっき立てたばかりの計画の通りに、振り返ってマコトさんの前に立ち塞がり、マオが見えないようにした。
「ちょっと、ミチタカくん。なぜ視界を塞ぐの?」
まぁ……、いいか。さる……山田先輩がマオを抱いてくれてる。
山田先輩ごと秘密兵器で撃つようなことはないだろう。
俺はマコトさんの前から退いた。
マコトさんの目にマオの姿が露わになった。
マコトさんの表情が、大好きな獲物を見つけた鬼女のように、とても嬉しそうにニチャアと笑った。
「マコトさん」
俺は言った。
「じつは……話があるんです」
「あなたがマオ・ウね?」
俺を無視してマコトさんはマオに話しかけた。
「猫の世界の王にして、地球の支配者。マオ・ウよね?」
な……、なぜ知ってるんだろう?
でも、勘違いしてる。コイツは確かにマオだけど、あのマオ・ウじゃないんだ。あの悪名を轟かすマオ・ウがこんなほわほわしたやつなわけがないじゃないか。
「ぼくにゃんを知っててくれたのかにゃん?」
マオが言った。人間語翻訳機を既につけていた。
「嬉しいだにゃん。ぼくにゃん、有名にゃんにゃ? そうとも! このぼくにゃんが、噂の地球の支配者、マオ・ウですだにゃん!」
「いや……、マコトさん。コイツ本物じゃないんですよ」
俺は慌ててフォローした。
「名前はマオだけど、マオ・ウになりきってるだけの、なんちゃって野郎で……」
「シェアーーーッ!!」
奇声を発してマコトさんが、いきなり山田先輩の抱いているマオに襲いかかった。
びっくりしてマオが飛び降りたので、マコトさんのミドルキックが山田先輩の胸に突き刺さった。
「ぐぇぼっ!!」
情けない声をあげて山田先輩がゲロを吐く。
しっぽの毛をバサバサに逆立てて逃げるマオを追って、マコトさんが歪んだ笑いを浮かべながら腕の秘密兵器を構える。
「危ない! マオ!」
俺は叫ぶしかできなかった。
「やめて! マコトさん!」
猫本さんも叫んだ。
「やめるんだ、マコトちゃん! 打ち合わせと違うぞっ!」
打ち合わせ……? 何のことだろう?
マコトさんの秘密兵器が発射された。
ドギュッ! という変な銃声とともに、何かが発射された。
それはまるで円盤のようなもので、クルクルと回転しながら飛んで行くと、マオの足元にぺたんと落ちた。
マオの動きが止まった。
ユカイも呆然としてそれを見つめていた。
マオの足元に落ちたそれは、白とピンクの平べったい半円形の物体だった。
かまぼこだ!
「こっ……、これは……?」
マオが鼻をひくひくさせる。
「なにか……とても……よき匂いのするものにゃ……」
大型のかまぼこに向かってゆっくりと近づいていくマオに向かって、重たいブーツを履いたマコトさんのローキックが飛んだ。
「マオーーーっ!」
叫ぶ俺の前で、マコトさんが狂喜の笑い声をあげる。
「イヒヒヒヒヒ!!」
ガシイッ!
「忍法、変わり身の術!」
マオと猫本さんが入れ替わっていた。
「やめるんだ、マコトちゃん! 計画を台無しにする気か!?」




