同盟Ⅲ(花井ユカイ視点)
やあ、みんな。俺は花井ユカイ24歳。鳥の巣頭のイケメンだ。誰からもイケメンって呼ばれたことはないけど。ククク……。
俺と冴木ミチタカは親友だ、たぶん。同い年だし、同じ仕事をいつも任されてるからな。NKU山梨支部最年少の二人だから、こき使われてるだけだけど。ウウウ……。
隊長に言われ、いつものようにミチタカと食糧調達に行った。
森にはいろんな野菜が自生している。トウモロコシが木になってたり、地面からバナナが生えてたりと、大昔の地球とは色々違うらしいけど。
たまに野生動物に出会うこともあるけど、それは狩らない。自衛のために武器は持ってるけど、食肉は基地にストックがあるからだ。新たに狩っても腐らせてしまうことになる。
「メロン……、生えてねーかなぁ」
俺はそう言いながら、地面を注意深く探しながら歩いた。
メロンは地面の中に埋まっていて、大抵はブナの木の根っこのところに生えている。
丸い薄緑のヘタが木と繋がっているので、注意深く見ればすぐにわかるのだが、なかなか生えていないレアものだ。
俺も産まれてからまだ三回しか食べたことがないが、アレはとろける。牛肉のうまみとキュウリの瑞々しさ、そしてサトウキビの甘さを兼ね備えていて、しかも栄養満点だという。
メロンさえあれば人間は生きていけるのだと俺は思っている。
「ユカイ」
ミチタカが言った。
「メロンの生えてる場所、俺、知ってる」
「まじでか!?」
俺は飛び上がってそのまま空へ飛んで行きそうになった。
「どこ!? どこどこどこだ!?」
「行ってみる?」
「あったりまえだろ!」
「こっちだ」
ミチタカについて行くと、草をかき分け、どんどん道をはずれて進んで行く。まぁ、誰にも見つからなかったメロンならひっそりとした場所に生えてるのだろう。
「ああっ……! よだれが止まらないぜ!」
興奮を抑えきれず、俺は喋り続けた。
「メロン! おまえに会うために俺は生きてるようなもんだ! おまえは俺の夢だ! 人生4度目のおまえに会えること、考えると今から体のうずきが止まらねぇぜ!」
そんな俺とは対照的に、ミチタカはちっとも興奮してない顔をして歩いている。なんだ、コイツは……。場馴れしてるみたいな余裕なのか、それは? メロンなんて産まれてから毎日食ってるとでもいうのか? ムカつくな……。メロンを見つけてといてすぐにゲットしねえってのも信じられねぇ。猿やリスに取られるかもしれないのに。
ミチタカが背の高い草を退けると、髪の長い知らない人間が立っていた。女……だよな? おっぱいがないけど。
「は? ……誰?」
「ユカイ」
隣でミチタカが言った。
「彼女は橘リッカ。俺の仲間だ」
「仲間? 何それ。メロンは?」
「こんにちは、花井さん」
リッカとかいうソイツがぺこりと頭を下げた。
「お待ちしてました」
「あ、こんにちは。……なぁミチタカ、メロンは?」
女なんて今はどうでもいい。俺はマコトさんのほうが好みだし。このへんに俺ら以外に人間がいたことらしいことにはまぁ、驚いたが、今はメロンのことしか考えられない。
「ユカイ」
すまなさそうにミチタカが言った。
「メロンはないんだ。騙してごめん」
「なんだとぁーーーッ!?」
世界が真っ暗になった。
晴れた空から怒りと悲しみの稲妻が落ちてきた気がした。
生きる力を失った。
誰かの首を締めて自分も死にたくなった。
ミチタカが言う。
「その代わりに」
リッカが言った。
「はい、これ」
リッカに何か丸いものを手渡された。
見ると、丸々とした何かの頭だった。
それが俺のほうを見上げて「にゃん」と言った。
「ぎゃああああああ!!!」
猫じゃねーか、これ!
俺はソイツをぶん投げた。
ミチタカとリッカが慌てて猫を受け止めようとする。しかし猫は自分でくるりと空中で回転すると、ひらりと地面に着地した。
「ユカイ! 俺とリッカは猫との友好を考えているんだ!」
ミチタカがふざけたことを言い出した。
「人間と猫は互いを知らなすぎるんだ! そのため互いに恐れ合い、嫌悪し合ってきた! 我々に必要なのは争い合うことじゃなく、理解し合うことなんだ!」
俺は決めた。
もうコイツは親友なんかじゃねぇ。敵だ!
山原隊長に進言して厳罰を与えてもらおう。
背を向けて駆け出そうとした俺の肩を、ミチタカの汚らしい手が掴む。
すかさず振りほどこうとした。しかし後ろから抱きつかれた。しつこい野郎だ。
「メロンだ、メロン! これはおまえの大好きなオレンジメロンだよ! よく見てごらん?」
ミチタカがそう言うので、メロンがほんとうにあるのかと思ってみたら、さっきのオレンジ色の猫のことだった。俺をバカにしやがって!
「メロンなんだ! ほらよく見てみろ! これは猫じゃない、メロンだ! スイートだろ? かわいいだろ? ほら!」
「てめえ! いい加減にしろ!」
ミチタカの胸にエルボーをくらわせてやった。
しかしミチタカと俺は格闘術で互角だ。二人ともたいしたことない。ホールドしにかかるミチタカ、振りほどこうとする俺。へにゃけた戦いに決着はつかないように思えた。
その時だった、猫が言った。
「メロン、好きにゃの? だったら猫の町にいっぱいあるにゃ!」
「は?」
見ると、猫が耳と口に何かの機械をつけていて、人間語を喋っていた。
「今……、なんて?」
「猫もメロンは好きなの」
オレンジ色の猫は、そう言った。
「だからメロン畑を作って、そこでたくさん作ってるにゃ。よろしかったら訪れて、みんなで食べないかにゃんにゃんにゃん」
「行く!」
俺は猫との友好への道を歩きはじめた。