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もしも地球の支配者が猫だったら  作者: しいな ここみ
第一部 人間 vs 猫

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30/129

猫と人間と虎と

 虎がお腹を地面につけて寝そべった。


「ママ、ゴロン、ウニャニャーウ?」

 そうリッカが聞くと、虎がのんびりした顔でうなずく。

「ミチタカ。ママの背中に座ってお話しましょう」


 おそるおそる背中の上に乗ると、なんだかいい気分だった。

 NKUの簡易ベッドより断然座り心地がいい。柔らかくて、暖かくて、頼り甲斐があって。その上なぜだか自分が偉くなったような気分になった。


 リッカが俺のことを見つめる。俺は少し離れて座ったはずなのだが、いつの間にかぴったりと隣にくっついていた。


「よかった。思った通りの優しそうな人で」

 そんなことを言ってくれる。

「おっぱいのことばっかり言ってたあのおじさんとは大違い」


「おっ……、おっ……?」

 ──ぱい、という言葉は言えず、ごまかした。

「おっ……、俺はべつに……。優しくはないよ?」


「マオと友達になってくれたんでしょ? 優しくなかったら猫と友達になってくれる人間なんていないよ」

 リッカの視線がなんかやたらとくすぐったい。


「俺はべつに……。ただ、マオのやつが、そういうキャラだっていうか」


「ふふっ」

 リッカが笑う。笑顔も綺麗だ。

「仲良くなりたい人間に出会えたのなんて、相当久しぶり」


 リッカが前屈みになって、下から俺の顔を覗き込む。

 風が吹いた。リッカの長い黒髪が、俺の鼻をくすぐった。俺は自分の顔が熱くなるのを感じた。


 リッカは綺麗だ。しかも可愛い。マオの説明でとんでもない化け物を想像してしまっていただけに、それとのギャップがすごすぎる。

 可憐で、細くて、笑顔が柔らかくて……ああ、こんな形容詞を人間に対して使ったのなんて産まれて初めてかもしれない。


 ただ、ひとつだけ、気になることがあった。


「ねえ、リッカ」

 俺はそれを口にした。


 なに? というようにリッカがまた俺の顔を覗き込む。俺は続けた。


「リッカって、女性……だよね? うちに最近女性の隊員が入ったんだけど、その人と比べると胸がやたらないけど、それに体のラインも起伏がなさすぎてつまようじみたいだけど、これ……どういうこと? 女性にも色々いるってことなのかな」


 ふと見るとリッカの笑顔が消えていた。

 月の女神みたいだったのが、まん丸い目のアオバミミズクみたいな表情になっている。どうしたんだろう。


「あっ!」

 俺は気づいた。

「アスパラガス発見!」


 足元の地面に三本、野生のアスパラガスが生えていたのだ。アク抜きをしないと食べられないキャベツやジャガイモと違って、コイツは生でそのまま食べられる。

 俺は虎の背から降り、一本だけ地面から引き抜くと、リッカに差し出した。


「食べる?」


「え? 草だよ、これ?」

 リッカの顔が、今度は驚いた可愛いイタチみたいに固まった。表情がコロコロ変わって面白いな。


「食べたことないの? アスパラガス。ほら、こうやって食べるんだ」


 手で握って、そのまま噛みちぎってみせた。甘いクリーミィな味が口の中に広がり、わずかな酸味とともにホロホロと溶けていく。


「ふぅん? 私も食べてみたい」


 そう言ってリッカが手を差し出した。渡すと、俺が噛んだところに口をつけ、見せたまんまを真似して上手に噛みちぎった。


「美味しい!」


「だろ? メロンの代替品として重宝されるぐらいだから、みんな大好きだよ。……っていうか、アスパラガスを知らないの?」


「うん。メロンは知ってるけど、これは知らなかった。基本的にはママと一緒にお肉ばっかり食べてるから」

 そう言って、地面を見下ろす。

「なんで一本しか取らないの? 三本生えてるのに」


「全部取っちゃうと、後のが生えない。こうやって三本のうち二本を残しとくと、次に来た時、四本になってるんだ」


「へぇ……! 賢い!」


 俺は何も言わず、照れ笑いで返した。

 こんなことは人間なら誰でも知ってることだ。食糧を作れる平地を猫に奪われた俺たち人間は、食べられる野生の野菜や食肉を有効利用するための知識に長けていなければ早晩食べるものがなくなってしまう。


 リッカが虎に何か言った。アスパラガスを差し出しているから、これを食べてみろということだろう。しかし虎は苦笑いをしながら大きな首を横に振った。


「ところで虎に育てられたって、どういうこと?」


 俺が聞くと、リッカが幸せそうに笑いながら、こっちを向いた。


「私、両親がいたの」


「え!?」


 驚いてしまった。普通の人間には両親なんていない。厳密には卵子と精子をそれぞれ提供した人物はいるが、それが誰なのかを俺たちは知ることがない。

 名字は親のものではなく、育児施設を出る時に先生がつけてくれるものだ。

『自分には両親がいる』なんて口にできる人間は限られた者だけだ。山原隊長にも、青江NKU総司令官にさえ、両親などいない。

 少なくとも俺はそんな人間には会ったこともなかったので、それがどんな身分の人間かも知らなかった。


「私の両親はね、私が9歳の時に……」

 リッカはさらに俺をびっくりさせることを言った。

「二人とも虎に食べられたの」






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― 新着の感想 ―
とんでもない失言をアスパラで誤魔化す形に!? 本人誤魔化す所か、誤魔化す必然性にも気づいてなさそうだけど。
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