にゃーん(マオ視点)
『にゃーん』
こんな鳴き方をするボクはおかしいんだろうか。
他の猫はこんな鳴き方しない。
子猫の時だけだ。にゃーん、なんて鳴くのは。
『おい、マオ』
ぼーっとしてたらビキにゃんが話しかけて来た。
今日もカッコいい紫色の細長い身体をまっすぐ立てて。
『なににゃん?』
ボクが聞いたらビキにゃんは首をひねって考えてから、言った。
『何言おうとしてたか忘れた』
『それはねこらしきことにゃん』
ボクとビキにゃんは友達だ。
ボクは猫の世界の支配者だ。
ボクの名前はマオ・ウ。猫の世界っていうか、この地球の支配者だ。
『お前のぼーっとした世界一でっかい顔見てると和む』
ビキにゃんが褒めてくれた。
『ありがと』
ボクとビキにゃんは並んで座って、おひさまを身体中に浴びていた。
『日向ぼっこ、気持ちいいな』
ビキにゃんがボクに言う。
『最高にゃ』
ボクはビキにゃんに答えた。
ボクとビキにゃんの上着が風に揺れる。下半身はもちろん産まれたままの姿。
自分の身体のオレンジ色がお日さまにキラキラしてる。
『これでどっかにさかりのついたメスでもいれば最高なんだがな』
『そんな興奮すること、今はしたくないにゃ』
『あっ。ユキタローが歩いてこっち来るぞ』
ビキにゃんがそう言ったので、向こうを見ると、ふんわかのどかな春の野を歩いて、
ユキにゃんがメガネを揺らして歩いて来るのが見えた。
真っ白なちょっと太めの姿が今日もかわいい。
『やあ』
ユキにゃんの声は低いけどかわいい。
『よぉ』
ビキにゃんの声は男らしくてカッコいい。
『にゃー』
ボクの声はちょっと……やっぱ子猫みたいで恥ずかしい。
『聞いたかい?』
ユキにゃんが深刻そうないつもの表情で、言った。
『ブリキが人間と森でやり合ったようだよ』
『な、なんだってー!?』
ビキにゃんが全身の毛を逆立てた。
『闘ったってことだよな!? うわぁぁあ恐ろしい!
森なんか好きこのんで行くブリキは何考えてんだ!?』
『ううう……にゃん』
ボクも話を聞いただけで恐ろしくなって、耳が垂れてしまった。
『でも安心して? 勝って、トウモロコシを奪って帰ったらしいよ』
ユキにゃんが表情をちょっと柔らかくして、優しく言った。
『戦利品だって。トウモロコシを持って帰ったよ』
『トウモロコシなんて持って帰って来てどうすんだ!?』
ビキにゃんが不思議がる。
『オレら、食えねーのに?』
『人間に勝ったことを示すためだよ。人間も食糧を取られて悔しがるだろ?』
『わかんねー。なんでそんなことすんだ』
『ボクもわかんにゃい』
正直にボクは言った。
『意味がわかんにゃい』
フフッと優しく笑うと、ユキにゃんは何も言わずに通り過ぎて行った。
ボクとビキにゃんは日向ぼっこを続けた。
『ねぇ、ビキにゃん』
『ン?』
『ユキにゃんじゃダメなの?』
『何が? 何の話だ?』
『さっき言ってた、どっかにメスでもいれば、って話』
『バカか、お前は』
『にゃんで!?』
『ユキタローは確かにメスだが、メスじゃねーよ』
『意味がわかんにゃい』
『アイツはメスだが、科学者だ。
自分で作ったさかりをなくす薬を飲んで、発情期を止めてんだよ。
いくら顔が可愛くてもよ、さかりのつかないメスなんてメスじゃねーんだよ』
『メスじゃないなら何にゃ?』
『友達だよ。決まってんだろ』
『あー……』
ボクはすごく納得した。
『そかそか。にゃっはっはっは!』
とにかく気持ちがよかった。お日さまがポカポカで、草がお尻をくすぐって。
ボクは後ろ脚でかゆい頬を掻くと、眠たくなった。
『ねむる? ビキにゃん』
お昼寝を誘う言葉をかけると、ビキにゃんはもう眠っていた。
座って上半身を立てたまま、器用に頭をコックンコックンさせながら、倒れずに眠ってる。
ボクも気持ちよくてしょうがなかったので、その場にお腹をつけると、
ビキにゃんの脚に寄り添って、ゴロゴロ喉を鳴らしはじめる。
白い蝶々が目の前を飛んで行った。鼻の上にとまりそうになるほど近かった。
日々は平和で良きことにゃん。