ニャオウ襲来(客観視点)
『マオ……! マオ……!』
ビキが走って来た。
『あっ。ビキにゃん! これ見てこれこれ』
マオはみんなに盛大に取り囲まれていた。
猫車に乗せて持って帰ったヌシ様を見せびらかしているところだった。
『このお方がヌシ様だにゃん』
偉そうに胸を張る。
『ビキにゃんにも一口食わせてやってもよかろうにゃん』
『それどころじゃねェんだよ、マオ!』
『そっ……、それどころとは……』
マオは膝から崩れ落ちた。
『ひっ……ひどい! ねこが苦労して釣って来た大魚を……どころ呼ばわりするとは……っ』
『あー……。すごいすごい。ヌシ様釣り上げたねー。でっかいねー。すごい』
ビキはさんざん褒めてから、
『それどころじゃねェんだよっ』
笑顔になりかけていたマオが再び膝から崩れ落ちる。
『……二度も言うのはますますひどいにゃん……。もう二度とどころ呼ばわりしないで……』
『わかった、わかった』
『一生言わにゃい?』
『言わん、言わん。イワンのばか』
『わぁい』
マオ復活。
『で? 何がそれどころじゃないのにゃん?』
『ニャオウが来てるんだよ!』
ビキはでっかい口を開けて知らせた。
『お前にまた挑戦しに来た! 負けたらお前、地球の支配者から脱落するんだぞ!』
『ほほう……』
マオはのんきにぼーっとした顔をしながら、言った。
『身の程の違いをお教えして差し上げますだにゃん』
(ΦωΦ) (ΦωΦ) (ΦωΦ)
『マオ! マオ・ウはどこだ!』
金色のヘルメットをかぶり、真っ赤なマントを羽織った、でも下半身はみんなと同じく全裸の猫が、馬の形をしたオモチャに乗って町に入って来た。
『我に臆して逃げおったか!? 臆病者のマオ・ウめが! ハーッハッハ!』
『ここにゃ』
丘の上からマオが、ぽんと顔を覗かせた。
『でかっ!』
ニャオウが少したじろいだ。
『相変わらず顔、でかいな……。しかし、我も負けんぞ!』
『やるかにゃん?』
『おお! 存分にやり合おうぞ!』
『審判、いるかにゃん?』
『もちろんだ! 不正のないように、この町の猫ではなく、無関係の者を所望!』
マオの横からミオがぽんと顔を覗かせた。そして、言った。
『初めましてやの、ニャオウ。あたいはマオ様のお嫁ネコ。名はミオ・ーンやの』
『そうか』
興味なさそうだった。
『あたいが審判するのやの』
『身内もいいとこじゃないか』
『ダメやの?』
『ダメに決まっておろう』
仕方がないので子羊さんとお猿さん、それとちょうど近くを通りかかっていた豚さんに審判をお願いした。
『いざ、勝負だ! マオ・ウ!』
『いつでもいいぜ。かかって来いにゃん』
ニャオウが先に仕掛けた。
頬を膨らませると、青い目をかっ開き、息を止めた。
『ほう……』
お猿さんが感心する声を上げた。
『なかなかじゃねェか』
ニャオウの攻撃が終わった。
次はマオの番だ。
『行くにゃん』
そう言ってマオは、何もしなかった。
ただそこに立って、ぼーっとした。
『こっ……、これは……!』
子羊さんが驚愕の声をメエェと上げる。
『すっ……、すごいメエェ……!』
『なんてことだぶー』
豚さんの顔色が変わり、鼻から汗がだらだらと滴る。
『こんな凄いものは見たことがないぶ……』
『フッ……。さすがマオ・ウ様だ』
お猿さんがフーと息を漏らしながら首を振った。
『判定するまでもないな……。この勝負……』
『『『勝者、マオ・ウ!』』』
『まっ……、また負けた……』
ニャオウ様ががっくりと膝をつく。
『あんなに頑張ったのに……。毎日猫の嫌いなお風呂に我慢して入って、熱いお湯の中に顔を浸したのに……』
『天然物には勝てないにゃ』
マオがころころと笑う。
『でもニャオウにゃんも頑張ったにゃ。友達ににゃろう』
『い……、いつか勝ってみせる!』
差し出された手を払いのけ、ニャオウは言った。
『そして地球の支配者の座を貴様から奪うのだ! わ、我が生涯に一片の悔い無しっ!』
『よくわからないにゃ』
マオが笑った。
笑うとでっかい顔がさらにでかくなった。
猫のボスは顔の大きさで決まる。
ニャオウは努力して顔を巨大化させたが、それでもマオには勝てなかった。
っていうか笑うとさらにでっかくなるのを知って、ニャオウはとどめを刺された気分だった。
『さあ、ニャオウにゃんもこっちへ。一緒にヌシ様、食うにゃん、にゃん、にゃん』
猫の町は今日も平和だった。




