敵本部に潜入せよ!(ブリキ視点)
夜。
オレはこの夜に乗じて決行する。
仲間とともに、敵の本部に潜入し、そこにいる人間どもを一人残らずバカにしてやるのさ。
この『くるくる光線銃』でな。へっへっへ。
そしてあの赤い毛の人間のメスに首輪をつけ、オレのペットとして飼ってやる。
3時間ごとに光線を浴びせ、バカにして、オレの毛づくろいをさせてやる。
ああいう活きのいい人間は好きだぜ。へっへっへ。
『ブリキ殿』
『おう、来たか』
オレは子分のもんごえと町外れで待ち合わせをしていた。もんごえにはまだ何も聞かせてねェ。
『計画があると申されていたが、何をするつもりでござる?』
そう聞くもんごえに、オレは初めて明かした。
『今夜、人間の本部を叩くぞ』
『なんと!?』
もんごえの顔に緊張が走る。
『今までは中に入れねェから出来なかった。だが、コイツがあれば可能だ』
『それは……?』
『ユキタローの発明品だ。コイツを背中につけ、ジェット噴射とやらをさせれば、空を飛べる』
小さな羽根のついた軽量のジェット噴射機を、もんごえの分もユキタローから貰い受けていた。
『ね、猫が空を飛べるのでござるか』
『早速今から行くぞ。これを背中に背負い、ここのボタンを押すんだ』
『ぎょ、御意……。刀を持ったままでも飛べるのでござろうか?』
『両前脚でバランスを取るんだ。刀はどっかにくくりつけろ』
『承知!』
『じゃ、行くぜ? ついて来い』
オレはジェット噴射させ、勢いよく飛び上がった。
『ああっ……!?』
下のほうでもんごえが墜落した。何をしてやがるウスノロが。ついて来やがれ。
『くっ……! はあっ……! こ、これはっ……難しいでござる!』
まったく才能がねぇ……。コイツに飛行を教えていたら夜が明けちまうな。
『置いて行くぞ』
そう言い残すと、オレは一匹で飛んで行った。
(ΦωΦ) (ΦωΦ) (ΦωΦ) (ΦωΦ)
暗い夜空を黒いオレ様が飛んで行く。気分は夜目の利くカラス……いやハヤブサだ。
みんなはオレのことを【黒猫】だと言いやがるが、オレは赤の混じった黒猫だ。
つまり【サビ猫】だ、間違えんな。
ヒヒヒ。人間の巣が見えて来たぜ。
地面に半分突き刺さったスイカみてーな形の、ピカピカ銀色の不可思議な巣。
昼間はあの銀色がキラッとか、水を入れた何かのボトルみてーに光りやがるから、
なんか、ちょっと、怖いんだよな。
知ってるぜ。丸い屋根の上にある、あの窓がいつも開いてやがんだ。
地上だと屋根がツルツルしてて登れなかったが、空からならイケる!
オレは窓から中へ、忍び込んだ。
早速、人間に出会った。
この前、トウモロコシを取ろうとしていたのを木から落としてやった、
茶色い鳥の巣みてーな毛を頭から生やした人間が「あっ」とか言って振り返ったから、
くるくるビームを食らわせてバカにしてやった。
なんだかニャンニャンとか、まだ言葉を喋れない子猫みてーな声を出しながら
床にコロンコロン背中をなすりつけるソイツを置いて、オレは巣の奥深くまで潜入する。
ターゲットはもちろん、あの赤毛のメスだ。
もちろん全員バカにさせてもらうが……
そう思いながら、銃を抱えて廊下を駆けていると、
なんてこったい。あっちから出て来てくれたぜ。
目の前に、あの、赤毛の人間のメスが立っていた。
オレを待っていたかのように。
そして、喋った。
『フフフ、猫ちゃん。いらっしゃい』
身体中に電撃が走った。
喋った!
コイツ、猫なのか!?
『イーきにー』と挨拶をされてしまったので、オレは銃を収め、挨拶を返した。
人間が卑怯だということを、忘れてはいけなかった。
銃を収めた無抵抗のオレに、赤毛のメスは銃口を向けると、青い網を放って来やがったんだ。
オレは捕らわれた。
(ΦωΦ) (ΦωΦ) (ΦωΦ) (ΦωΦ)
ガスで眠らされていたようだ。
次に気がつくと、オレは白くて冷たい台の上に乗せられていた。
周りに人間はいないが、近くに気配はする。
『おい!』
オレは怒鳴ってやった!
『これ外せ!』
あろうことか、人間のヤツめ……高貴なるオレ様の首に、首輪をつけてやがった!
それが白い台についた鉄のでっぱりにオレを鎖で繋いでやがる!
猫をなんだと思ってやがる!
オレは激怒した!
人間で遊ぶのはこの高貴なる猫であるオレ様の特権だ!
人間ごときが猫で遊ぶんじゃねェ!
くるくる銃は当然のように盗まれていた。
『もんごえ!』
オレは叫んだ。
『もんごえ! 助けに来い!』
オレの大声に反応し、あの赤毛の人間のメスが部屋に入って来た。
なんて恐ろしい、歪んだ顔をしてやがる。でもオレは負けねェぞ!
『ふふふ、猫ちゃん。ご機嫌いかが?』
そいつは猫の言葉を喋った。
『いいわけがねェだろう! 貴様、言葉が喋れるとは……。猫なのか? いや、んなわけねェよな?』
『これからとっても楽しいことをするのよ? あなたを使って』
『なんだ。見せしめにハリツケにでもして猫の町に送り返すとかか?』
『解剖するの』
赤髪のメスがニヤァと笑った。
『猫の身体の仕組みを知るためにね、あなたをグチャグチャにするの』
全身の毛穴がぞわりと冷たい音を立てるような心地がした。




