潜入でござる(猫本つよし視点)
ソレガシ、現在、空を飛んでいるでござる。
轟マコトちゃんの開発した《どろーん》なるものの上に立ち、忍者が凧に乗るように、空の上を行っているのでござる。
ござる、という語尾は山田副隊長へのあてつけではござらん。雰囲気作りなのでござる。
ふふふ。僕、甲賀忍者の末裔だからね。
いっぺん言ってみたかったんだ。ござる、ござる。ふふ……。
気分は最高。まさか空なんて本当に飛べるとは思わなかった。
空を飛ぶ夢は何度も見たことあるけどね。
空を飛ぶ夢って、エロい願望の象徴的現れなんだってね。
いや、僕、そんなの興味ないけど。
マコトちゃんが作ったものの上に乗ってる。そのことが一番気持ちがいい。うふふ……。
いや、僕は変態じゃないけど。
さて、ぼちぼち猫の町の上空だ。ぽつぽつと猫の姿が見え出した。
遠いから見えないや。
みんなは拡大したカメラ映像を今、見てるんだろうな。僕には点にしか見えない。
おお、歩いてる、歩いてる。歩いてると猫だとわかる。
歩いてないとただの点だけど、色はなんとなくわかる。
ん?
なんか……
飛んで来てない?
こっちに向かって……
……ああっ!?
猫だ!
黒い猫が、背中にかっこいいジェット噴射機背負って飛んで来る!
凶悪な笑い!
凄いスピード!
「わわっ! ……ひぃっ!」
どーーーん!!
何が起こったのかよくわからなかった。
猫がちっちゃいバズーカ砲みたいの撃って来た。
死んだかと思ってた。
次に目を開けると、周囲で「フゥ~」とか「ウウ〜」とか、不吉な声がしてた。
がばっ!と起き上がると、僕はツル植物で作られた網で囲われた檻の中にいた。網の檻だ。
網の隙間から、無數の猫が、恐ろしい目を光らせて、みんな僕を注視してる。
恐ろしさに失神するかと思った。
そうか……。僕はドローンと一緒に撃墜されて……。
あの高さから落ちてよく生きてたもんだ。
無意識に《忍法キャット空中7回転》を使ったんだろうな。さすが僕。
でも、猫に捕まってしまった……。
食われるのかな……。僕、これから猫達に、食われるのかな……。
うう……。やだ。
まだマコトちゃんのオッπにも触ってないのに。
どうにか出来ないか……。僕の忍法で、どうにか出来ないかな。
いや僕はそんな便利な忍法は体得してなかった。
自分の胸に手を触れた時、それに気づいた。
首からぶら下げていた、マコトちゃんの発明品。
猫語翻訳機。
頼みの綱はこれしかないと思った。
使い方は習っていた。何度か使ってみたことはあった。
僕はスイッチを押しながら、猫達に向かって「こんにちは」と言うと、スイッチを押している手を離した。
小さなスピーカーから結構な音量で、猫の声が出た。
『イーきにー』
猫達がびくっと反応した。
ざわざわと騒ぎ始める。
口々に僕に何か言って来る。
それを翻訳しようとしたけど、でも多すぎてどれを拾ったらいいやらわからない。
どれでもいいから人間語に翻訳しようと、声を拾おうとするけどエラーになる。
この翻訳機、一対一ならいいけど、こういう状況ではまったく使えない。
しょうがないので一方的に喋ることにした。
『僕は猫だ。ほら、猫の言葉が喋れるだろう?』
ざわ、ざわ、ざわ。
『僕をここから出してくれ。帰らせてくれ。頼む』
ざわ、ざわ、ざわ。
ふふふ。動揺してる、動揺してる。
バカな猫のことだ。きっとこれで僕を猫だと信じて、基地に帰らせてくれるだろう。
そう信じて反応を待っていると、信じられないものを聞いた。
猫の群れの中から、人間の言葉で、声がしたのだった。
「そんな不便な機械より、こっちのを使ったほうがいいですよ」と。
声の主を探した。猫ばっかりだ。人間の姿は見当たらない。
僕がキョロキョロ見回していると、もう一度、今度はすぐ目の前から、その声がした。
「こんにちは、人間さん。ここですよ、ここ」
見ると、そこに丸っこい白い猫がいて、メガネの奥から比較的小さな目で僕を見つめていた。
耳に小型の白いイヤフォンのようなものをはめ、どこに固定しているのか、口元にワイヤレスのマイクを当てている。
「ボクの名前はユキタロー」
その猫は言った。
「猫の科学技術者です。初めまして」




