ねこヒロインはあたしやよっ!(ミオ視点)
木の陰からじっと見つめてただけやのに、マオ・ウ様が走って逃げ出したのやの。
『待って! 待ってくだちゃい、マオちゃま!』
あたいは追いかけた。
マオ様は振り向きもせずに駆けて行く。なんで? どうしてやの?
『待ってェ! 待つやよォ!』
あたいが追いかければ追いかけるほど逃げ足が上がるの。なんで? まるで逃げてるみたいや。
『待つやよォ〜! マオちゃまァ〜!』
『ひいいいい……! ストーカー!』
マオ様がそんな声を上げた。声にエネルギーを使ったぶん足が少し鈍った。行ける!
『待つにゃん!』
『えっ?』
振り返ってくれたの。
近づいて来てくれるの。
ドキドキするの。
ああ……、マオ様。ミオはあなたに夢中やの。
『君は……』
マオ様があたいに話しかけてくれたにゃ!
『【にゃん】って鳴くの?』
『にゃん!』
そこがポイントだったらしー。あたいはこれれもかっ!ってくらいに繰り返したの。
『にゃん! にゃん! にゃん! にゃん! にゃん! にゃん! にゃん! にゃん! にゃん! にゃん! にゃん! にゃん! にゃん! にゃん! にゃん! にゃん!』
マオ様が、笑いながら、泣き出したの。
『嬉しいにゃ……』
だばだばと涙ーだを流しながら、言ったの。
『ボクだけかと思ってたにゃ……。大人になっても【にゃん】なんて鳴く猫は……。
子猫だけじゃなかったんだにゃ! 【にゃん】って、大人になってから鳴いても、いいのにゃ!』
『それでいいの』
あたいは大胆にもマオ様を抱きしめたの。
『それでいいのにゃよ、マオ様』
『君の……名前は?』
『ミオ・ーンにゃの』
『ミオにゃん……』
そしてマオ様が言ってくれたの。
『君をボクの奥さんにするにゃ!』
嬉しすぎて、あたい、失神するかと思った。
でもそこにビキ様がまたやって来て、マオ様に言ったの。
『マオ……。わかってると思うが……、一匹で森に行くなよ?』
『おやビキにゃん。もう交尾は終わったのかにゃん?』
『ああ。またオレの子猫が産まれるぜ。
34匹になるか、36匹ぐらいになるのかは、まだわかんねーけどな』
『おめでとにゃん!』
マオ様がそう言ったので、あたいも隣に並んで祝福したの〜!
『おめでとッス!』
『ありがとう』
ビキ様は照れたように頭を掻くと、マオ様に同じことをまた言ったにょ。
『一匹で森に行くな? あそこは人間が出るってわかったからな』
『りょーかいにゃ!』
マオ様が可愛く肉球を掲げて申されました。
『……で、明日、またみんなで行くにゃ?』
『バカか、お前は』
ビキ様が申されました。
『人間が出るってわかったんだ。もう二度と行くわけないだろ』
『でも……ヌシさまが……!』
『諦めろ。新鮮な川魚ならいくらでも』
『ヌシさまに……! ヌシさまにお会いしなければ!』
『あれ、ウソだから。ヌシなんて魚、いねーから』
『でもでもでも! ヌシさまに会わないといけにゃいにゃん!』
『ヌシなんていないって言ってんだろ!』
『それこそウソにゃ!』
マオ様がお可哀そうに号泣しはじめたの。
『ボクを行かせないようにって! それでビキにゃんウソついてるにゃ!』
『意外に騙されねーな……』
ビキ様がマオ様に聞こえにゃい声で言ったけど、あたいには聞こえたの。
『まぁ、大丈夫だろ。オレらが行かなきゃ、一匹では行けやしねーだろ』
ビキ様がお立ち去りになると、マオ様はその場に泣き崩れた。
どうされたのだろう? 聞いてみた。
『マオ様、何が悲しいにゃ?』
『一匹で行っちゃいけないって……』
マオ様は可愛く泣きながら、言ったの。ああ、食べちゃいたい。
『森の湖にヌシ様を釣りに行きたいのに……一匹では行けないにゃ……』
『あたいが一緒に行ってあげるにょ』
『えっ!』
『二匹なら行けるのやの。あたいと行くにょ』
『本当かにゃん!?』
マオ様が元気ににゃった。ビンビンに元気ににゃった。
にゃふふ。この顔が見たかったのやのやの。
それに、マオ様と二匹っきりで森でデートだなんて、これはシメシメやの。
『じゃ、今から行くにゃ!』
『もう、夜になりますにょ?』
『猫は夜行性にゃ!』
『ほんとだ!』
こうしてマオ様とあたいは森の中にあるという湖へ出かけることになった。
さかりのついたメス猫の、この、あたいと。
今夜、キメる!




