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もしも地球の支配者が猫だったら  作者: しいな ここみ
第三部 人間 vs 人間

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橘六花姫の声明

「皆さん、はじめまして」


 日本中のNKUのモニターをジャックして、リッカが喋りはじめた。


「わたしはたちばな六花リッカ、『橘家』の生き残り、橘家の最後の姫です」


 猫の町の丘の上で、ユキタローが急拵えで作った通信装置とカメラを前に、リッカは語った。

「映ってる! 映ってるぞー!」「姫ってどういうことだー!?」という猫本さんやさる……山田先輩の声が無線機からうるさく聞こえている。


「わたしは10年前、両親とともに自家用飛行機での移動中、エンジントラブルに遭い、虎の棲息する森へ墜落しました」


 リッカの声が、いつもと違って厳かだ。

 着ている白い麻のワンピースも正装の着物に見えてくる。


「父の久志も、母の香織も、その時に亡くなりましたが、わたしは優しい虎に助けられて命をとりとめ、その虎に今まで育ててもらったのです」


 俺は黙ってそれを聞いているしかできなかった。

 リッカに質問したいことは山ほどあったのだが、黙って聞いているしかなかった。


「残念ながら、わたしが橘家の姫であるという証明をすることは、今はできません。

 ですが、30歳以上の方なら特に御存知と思いますが、橘家はその突出した生殖能力で皆様から『神』と崇められて参りました。

 その能力は女性のほうが遥かに強いといわれております。……これまで代々橘家には、久しく男の子しか産まれておりませんでした。その精子の力も元気がよろしいですので、産まれた男の子はすべて成人になるまで育ちました。

 わたしはおよそ二百年振りに誕生した、橘家の姫なのです。

 わたしは子を産みます。ぽんぽんと産んでみせましょう。その相手も既にわたしは決めております。

 そして、わたしが産んだその子らも、当然強い繁殖能力を有することとなります。

 わたしはこの国の人類の未来に繁栄をもたらすことをお約束いたします。

 そして、それをもって、わたしが橘家の者であることを証明してみせましょう」


 青江総司令官たちの妨害はないようだった。ユキタローが外部からの電波の侵入を防いでいるようだ。


 リッカは続けて語った。

「わたしの能力を、人類のため、捧げることをお約束いたします。

 ただ、それにはひとつだけ、条件があります。

 それはNKUの解散です。


 皆さんは、猫のことをどれだけ知ってらっしゃるでしょうか?

 猫と会話をしてみたことがあるでしょうか?

 わたしは猫族の虎に助けられ、育ててもらいました。おかげで猫語が話せるようになり、猫のことをよく知ることができました。

 わたしは猫との共存を望んでいます。

 猫とは絶滅させるべきものではなく、仲良くするべきものだと思うのです。

 同じ星にたった二種類の知的生命体、仲良くしたいのです。


 今さっき、猫の王マオ・ウと話し合い、猫の町の中に、人間のコミューンを作ることを許可してもらいました。

 もう、山の中や、暗い地下に、人間は潜んでいる必要はないのです。

 明るい場所で、わたしたちと暮らしませんか? そのうち日本各地に似たようなコミューンを作る予定でおります。

 ……報告するのが遅れましたが、NKU総司令官青江当麿が発射させた理想兵器は、先ほど失敗に終わりました。

 猫を愛してくださいなどと強要するつもりはありません。

 ですが、わたしは猫を愛しています。

 わたしの愛する猫を、まるで独裁者のように、猫のことをよく知りもしないで絶滅に追いやろうとした総司令官青江当麿を、わたしは許しません。

 NKUを解体し、青江当麿を追放することが、わたしの望みです。

 それでは、人類の明るい未来のため、皆様の聡明なご決断を期待しております」



 ユキタローが通信機のスイッチを切ると、リッカは膝から丘の上に崩れた。


 俺は駆け寄って抱き起こした。聞きたいことが山ほどあったが、言葉は何も出てこなかった。


「おそらく……今のわたしの声明、日本中の……あるいは世界中の人間たちが視聴したわ」

 そう言うと、汗まみれのリッカは、寂しそうに笑った。

「……ほんとうはこんなこと、したくなかった。権力で言うことを聞かせるんじゃなくて、みんなに猫と仲良くしたいって、心から思ってほしかったの」




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― 新着の感想 ―
いい覚悟だぜ、リッカ。 ミチタカは彼女を支えてあげられるのかなあ?
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