爆炎の晴れ間に見えたもの (秦野ユイ視点)
「理想兵器、着弾しました!」
伊勢原隊員がそんな声をあげたが、言われなくてもわかってる。
わたしの作った兵器だもの。的は1ミリも外さない。
猫の町を出る時にこっそり仕掛けておいたカメラにも派手な爆炎と、広がるタマネギガスの映像がしっかり映ってる。
やった──
遂に、やった──
約一万年に渡る猫の地球支配に終止を今、打ったのだ。
「やったぞ!」
「人間万歳!」
隊員たちが皆、大喜びしている。
「これでメロンが食べ放題ですわ」
松田さんがにこにこしている。
「あとは日本中に片っ端からタマネギガス散布して、トコトン猫を絶滅させるッス」
アズサがサクランボを舐めながら、怖い目をしている。
──あっけない。
こんなものか。長年の夢が叶ったというのに、なぜか心には寒風のようなものが吹いている。
松田さんはメロンをこれからいくらでも食べられる。アズサやマコトは新しく平地に建設されるであろう人間の町で、これからお洒落をたくさん楽しめる。
わたしは──?
猫を絶滅させるための研究と、理想兵器の開発にすべてを捧げて来たんだ。女を捨て、楽しいことなど何もせず、ただ猫を殺すことだけを生き甲斐として来た。
つまんねーな……。クッ!
不甲斐ねーな、猫! もっと抵抗してみせろよ!
侵略に来たという宇宙人を、宇宙まで吹っ飛ばしたという、その科学力はどうしたよ?
何よりミチタカちゃんは悲しんでるかしら?
でも……わたしがやったって言わなければいい。
だってほんとうに、青江総司令官さまのご命令に従っただけだもん。
あとは、あの女……
そうだ! あの女、橘リッカを虐めることに、これからのわたしの人生を捧げればいいんだ!
ククククク……! あの細い身体についた穴という穴に綿棒を挿し込み、グチャグチャにして、その体内から子宮を取り出して、この天才マッド・サイエンティストの秦野ユイ様が人類大量生産装置に作り替えてやる!
そしてミチタカちゃんは……
わたしの子どもを産むの!
──違った! わたしがミチタカちゃんの子どもを……産むの……産む!? 産めるの!? わたし、生殖能力はふつうの、つまりは能力の低いふつうの女なのに!?
じゃ、橘リッカで作った超高性能の人工子宮装置に、わたしの卵子とミチタカちゃんの精子を入れて、まぜまぜしましょう。
……いや、なんか嫌だ!
橘リッカで作った人工子宮装置を使うのが、なんか嫌だ!
いいや。
子どもなんか作らなくても、ミチタカちゃんがわたしを抱いてさえくれれば。
そしてきっと彼は、わたしのことを……
頭の中でめくるめく妄想をしていると、モニターをじっと見つめていたトーマちゃんが、言った。
「……見ろ! 爆炎が晴れるぞ」
司令室に集まったトーキョー本部の隊員たちが、モニターに注目する。
わたしも遅ればせながらモニターを振り返る。
「……あ」
「あっ?」
「ああっ!?」
爆発の煙と、タマネギガスの青白い霧がだんだんと晴れて行く中に、丘の上に立つ無数の影が見えてきた。
立っている!
猫たちは、一匹残らず、もがき苦しむこともせずに、ただ立っていた!
すべての猫が目を細め、そこから涙をだばだばと流しながら!




