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もしも地球の支配者が猫だったら  作者: しいな ここみ
第三部 人間 vs 人間

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人類の未来

「あなたの子が産みたいの。種付けをしてほしい」


 朝も早くからそんなことをリッカから言われ、俺は何と答えようか、しどろもどろになってしまった。


「た……、種付けって……。植物じゃあるまいし?」


「知らないの?」

 リッカが真面目な顔をして言う。

「動物だって種付けをするのよ? おしべとめしべを触れ合わせて、新しい命を作るの」


「まさか……」

 俺は思わず笑ってしまった。


 人間は人工子宮装置の中で作られるものだ。

 確かに──男性の精子と女性の卵子を材料とするけど、それは種付けと呼べるようなものじゃない。

 試験管の中で二種類の薬品を混ぜ合わせ、紫色のけむりみたいなのを作るような、いわば化学反応だ。


 そう、思ってたんだけど……


 ──違うのか?


「わたしには両親がいたって、前に話したでしょう?」


 そういえばリッカはそんなことを言っていた。

 両親から産まれたんだって……。でも、ふつう、そんな人間はいない。ふつうは人工的に作られるものだ。


 リッカが俺の隣の地面に腰を下ろした。

 横から俺の顔を見上げながら、微笑んで言う。


「わたしの一族はね、類い稀な生殖能力を代々有しているの。だから、わたしに種付けされた命は、確実にこの世に産まれ、そして強く育つの」


「よ……、よくわからないけど……」

 俺はしどろもどろに答えた。

「つまりは……リッカは……俺との子どもが欲しいってこと?」


 リッカがプッと吹き出した。

「そう言ってるじゃない」


「でも……、どうして俺なんかの……」


「ミチタカが変えてくれたのよ? 人間と猫の関係を」


「ああ……、うん。たまたまね」


「たまたまじゃないわ。あなたの心に一万年の人類の思い込みを崩せる力があったから、人間と猫との友好への道が開けたのよ。それはすごい力なの。あなたはすごい力をもっているの」


「そんな……ことは……」


「だからわたし、そんなあなたの子が欲しい」


 ぼんっ! と自分の顔から火が出る音が聞こえた。


「おはようにゃ!」


 そこへマオが来てくれた!

 助かったというか、邪魔されたというか……、複雑な気分だった。


 ミオもすぐに後からやって来た。四匹の子猫をぞろぞろと連れて。


 マオがメロンを食べはじめながら、俺に聞く。

「ところでみっちゃんとリッカ様は、まだ子猫は作らないのかにゃん?」


 その話に戻すなよ! と心の中で突っ込んだ。


 リッカがマオに言う。

「今、その話をしてたのよ。ふふ……」


「それはよきことにゃん!」

 マオが笑った。

「子猫はいいものにゃ! ……あ、人間だから子人間っていうのかにゃ? なんにしろ、子には未来がいっぱいあるにゃ! それにかわいいにゃ! ボクよりもかわいいなんて、すごいことにゃ!」


 それを聞いて、俺の気分は暗くなった。


「でも……」 

 頭に浮かんだことを、リッカに話した。

「俺たち人間が、子孫なんて繁栄させてもいいんだろうか?」


 リッカが俺の顔を覗き込み、表情で「どういうこと?」と聞いてくる。


「俺たち人間は罪深い存在なんじゃないだろうか……。神様の用意した自然を、自分たちの都合で作り変え、破壊して、自分好みにしようとする。猫の町はあの通り自然のままだけど、俺たち人間が平地に町を作ったら、きっととても不自然なしろものを作り出す。だから、神様は罰として人間を殖やさないようにし、食べ物も作れないようにしたんじゃないだろうか?」


「ふふ……」

 リッカが笑い、言った。

「そういうこと言うから、わたしはミチタカが好き」


「す……!?」


「その気持ちがあれば大丈夫なの」

 リッカは俺から顔を空のほうに向けると、未来をそこに見つめるように、言った。

「罪深いのも人間なら、愛に満ち溢れてるのも人間なのよ。わたしたち人間が、未来を見つめちゃいけないなんてことは、ない。ほら、あの空に、愛に満ち溢れた未来が見えない?」


 その空から、何かが飛んでくるのが見えた気がした。


 後ろのほうから誰かが走ってくる足音が聞こえてくる。


「冴木隊員! 橘隊員!」

 海崎さんだった。駆けて来ながら、大声で俺たちに知らせた。

「理想兵器が発射された! すぐにこの町にやって来るぞ!」




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― 新着の感想 ―
きゃーっ!? と黄色い声を上げたくなったと思ったら、 ギャーッ!? と悲鳴を上げたくなるようなモノが!? タマネギガス、って普通に人間も辛そう。
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