人間にメロンが栽培できない理由
なぜ、人間には、メロンが栽培できないんだろう。
俺は猫の町のメロン畑に一人座り込み、寂しくメロンを食べながら、考えた。
メロン畑を作ろうとタネを蒔いても、発芽はするもののけっして実らない。
メロンだけじゃない、どんな果物も、どんな野菜も、人間のためにはけっしてその食用部分を形にしてはくれない。
まるで神が、人間に農耕を禁じ、滅ぼそうとしているかのようだ。
しかし中には例外もある。
サクランボはヤマナシ支部では他の果物同様、土から突き立つように生えるカチカチに固くて食べれたもんじゃないしろものだが、トーキョーでは品種改良されて、甘くて口の中で溶けるキャンディーみたいなものとして室内栽培されているという。
太古の昔はサクランボとは木にぶら下がって生るものだったそうで、土から生える今のものとはまったく違ったそうだが、それでも人間が栽培することに成功している。
ヤマナシ支部でもジャガイモの栽培をやっている。
ジャガイモならいくらでも作れる。まぁ、太古は蒸せば甘くてホクホクしていたものらしいそれとは違い、蒸してもカリカリと固く、味もないものだが、とりあえずは食べられる。
あとは自然に生えているものを採って食べる。土から生えてるアスパラガスや、木の上に生るトウモロコシなどだ。
いや、もうひとつ、人間が栽培することのできる野菜があった。
タマネギだ。
これだけは太古の昔と味も形もほぼ同じらしく、作り方も一緒らしい。
むしろ自然の土壌ではけっして育たない。酸性の土壌に弱いらしいのだ。ゆえに山歩きをしてもタマネギが生えているのを見つけることはけっしてない。
山の酸性土を中性に調整した人工土の中ならよく育つ。
人間にとってはジャガイモと並び、最も馴染みのある野菜だ。キャベツも作ることは出来るが、紙みたいにシガシガしていてちっとも美味しくはない。ジャガイモのほうがまだ美味いくらいだ。
タマネギも、辛いばかりで甘さなんて微塵もないが、まぁ食べられるので、そして栄養はあるらしいので、ヤマナシ支部ではよく作っているし、トーキョー本部でも同じらしい。ただ、あっちのタマネギのほうは改良されていて、ちょっとだけ甘いとは聞いたことがあるけど。
なんにしろ、人間にメロンが作れないのは、やはり神が与えた罰だとしか思えない。
あんな害のない、無邪気でかわいい猫を絶滅させようなんて企てる罪深き人間に、神が罰を与えようとしているのだとしか思えなくなった。
人間の出生率が低すぎるのも同様だ。
しかも人工子宮の中で環境に留意しながら育てても、そのほとんどは胎児のうちに死んでしまう。無事、産まれても、きちんとした人工栄養を与えて適温で無菌室の中で育てようとも、やはり成人するまでに育つのはほんの一握りだ。
やはり神が罰をお与えになっているとしか──
そんなことを考えながら俺がメロンをボソボソと齧っていると──
「ミチタカ!」
透き通るようなリッカの声が、俺の名を呼びながら、近づいてきた。
「お願いがあるの」
リッカは俺の目の前まで来ると、その綺麗な瞳を潤ませ、まつ毛を濡らし、真剣な顔で、言った。
「わたし、あなたの子が産みたいの。種付けをしてほしい」
思わずメロンを噴き出してしまった。




