表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
もしも地球の支配者が猫だったら  作者: しいな ここみ
第三部 人間 vs 人間

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

116/129

早急に理想兵器を発射せよ (秦野ユイ視点)

「死んだか」

 トーマちゃんがいつもの暗い声で言う。


 わたしはうなずき、答える。

「ええ、死んだ」


 ガス室で、灰色の猫は体中の液という液をだだ漏れにさせて、倒れた。

 猫の死体なんて触りたくもない。あとで誰か下っ端に掃除させとこう。


「では早速、タマネギガスを充填させ、猫の町に理想兵器を飛ばせ」


「もう!?」

 わたしは反対した。

「たった一体だけのサンプルでは気が早すぎるわ! 実験データを確実なものとするには数が──!」


「わかっている。しかし、猫の科学力というものを、私はあの空に連れて行かれた時にまざまざと知らされた。急がねば、バリアを作られ張られてしまえばせっかくの理想兵器を防がれてしまう。その前に飛ばすんだ」


 確かにトーマちゃんの言うことはわかる。  


 小癪なことに、猫は原始的な動物のくせに、高度な人間語翻訳機なんかも作りやがる。今頃マコトに言われて対策をしはじめていることだろう。急がねば!


 あの猫の町で、もう何匹か実験用の生体を確保できればよかった。……橘リッカめ、猫を使って邪魔しやがって。


 捕まえるならだだっ広い平地のあそこしかなかった。

 ツタの生えまくった荒野のトーキョーじゃ、猫の隠れる場所がありすぎて、とても捕まえられない。しかもトーキョーの猫は警戒心が強く、人間を見た途端にバカにするような顔をして逃げ出す。


 わかってはいたが……、あそこまで捕まえられないものとは……。


「やりましょ! 殺りましょ!」

 松田さんが、本部のみんなにメロンを配って回りながら、楽しそうに言う。

「猫の町にアレを撃ち込んだら、続けてタマネギガス銃を作りましょ! それでガスをまき散らして、おびき出されてきた猫を片っ端から蹴り殺しまくるの。楽しそうですわ!」


「すぐに飛ばせるんっしょ?」

 アズサがわたしに聞く。

「どれぐらいで飛ばせるんッスか?」


 わたしは答えた。

「……5時間もあれば」


 ミサイルはとっくに完成している。あとはタマネギガスを製造し、ミサイルに充填するだけだ。

 材料のタマネギを大量に入手し、ガスとして加工するのに時間がかかる。タマネギのどの成分が猫にとって毒になるのかが判明していればもっと早いが、それをするにはもっと生体サンプルが必要だし、何より解剖をしないといけない。気持ち悪い。


「すぐにやるんだ。ぼやぼやしていると、人類の未来を開く道が閉ざされてしまう」


 トーマちゃんにそう命じられ、仕方なく取りかかるしかなかった。


 こんなの科学者として不本意だ。

 綿密に実験を重ねることもせずに実行に移すなんて……。


 しかしトーマちゃんは、わたしをその気にさせるようなことを次に言った。


「猫がいなくなれば橘リッカを捕らえることも容易になる」


「捕らえる!?」

 わたしはその言い方が気に入らなかった。

「殺すんでしょ? わたしに是非、殺させてよ! 猫の邪魔さえなくなれば容易だわ!」


「橘家がなぜ、日本において絶大な権力を誇ったか、知っているか?」


「知らないわ。どうしてよ?」


「橘家は高確率で子供を作れる。それゆえに人類の未来を担ってきた」

 トーマちゃんが、語る。

「知っての通り、我々人類の繁殖力は極めて低い。そんな中で、その桁外れな繁殖能力の高さを理由に、橘家はその権力を保ってきたのだ」


「へー……」

 ちょっと面白い話だと思った。


 安産体型とは程遠いガリガリの、むしろ難産体型に見えた、あの小娘がねぇ……。


 トーマちゃんが続ける。

「そしてその能力は女のほうがよっぽど高いのだ。橘家の跡継ぎはしばらく男ばかりだった。それゆえにか、橘家の跡継ぎはずっと一人っ子だった。しかし、ようやく女が産まれ、この娘が成長すれば高い生殖能力をもった子どもをぽんぽん産めるだろうと期待されていた。そんなところに飛行機が墜落し、橘リッカは死んだものと諦められていた。しかし、生きていた」


「本物なのね? あの子……。ほんとうに橘家の姫なのね?」


「姫」という言葉を自分の口から出して、その言葉に「きいぃ……」とすぐに歯ぎしりしてしまった。


「あの女はいくらでも産めるぞ! しかも産んだ子は、強い。高確率で生殖能力を有する年齢まで育つ。産まれても生存率の低いそこらへんの人工ベビーとは違う。

 あの女を捕まえて繁殖マシーンにしてやるのだ! 世に知られることなくNKUで捕獲し、監禁し、ここでぽんぽんと子どもを産ませる! この私の子を、産ませまくってやるのだ! それは人類の繁栄に繋がる道となることだろう!」


 さすがトーマちゃん、おこちゃまね!

 幼さゆえの残酷さ……ビリビリ痺れちゃう! 素敵!


「その生殖能力により、橘家は権力者どころか神として崇められている」

 さらにトーマちゃんが残酷なことを言い、わたしは頼もしさに失神しそうになった。

「猫との友好を望む者などを神と崇めさせるな! 世間からその存在を隠し、ただの生ける繁殖マシーンとしてやるのだ! 神の座から奴隷に引きずり降ろせ!」


「わかったわ、トーマちゃん!」


 わたしは嬉々として、理想兵器の完成に着手した。


 明日の朝には飛ばせるようになる予定よ! ひひひ!




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
おう、十三歳がエロマンガみたいな事を言い出した!? ほら、パソコンやスマホにフィルタリング機能をつけなかったから………。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ