ふつうの猫になります (ニャオウ様視点)
朝から少しお腹の調子が悪かったこともあり、我はとぼとぼと草原を歩いておった。
何より我を気落ちさせておったのは、もちろんマオとの勝負に遂に決着がついてしまったことであった。
ふぅ……。
我は、負けた……。
完敗だ!
マオ・ウがまさか、あの恐ろしい人間どもと懇意になっているとは……。
なんておぞましい妖怪を味方につけたものか……。あの巨大な顔! あれを思い出すたびに身の毛がよだつ!
もう……、我は地球の支配者にはなれぬのか……。
儚い夢であったか……。
まぁ、地球の支配者になれたところで、べつにふつうの猫と変わりがあるわけではない。
特別美味しい魚が自分だけ食べられるわけでもなく、みんなと一緒に奪い合うことに変わりはないし、何より子猫たちには先に食べさせてやらねばならん。
チヤホヤされるわけでもなく、ただ『顔、でかっ』といつでも褒めてもらえるだけのことだ。
その褒め言葉が我は欲しかった……。
すれ違う猫どもに『やぁ、ニャオウ。今日も顔でかいな』と言わせたかった……。
しかし、夢は夢であったか……。
もう、ぼく、ふつうの猫に戻ろうかな……。
自分のことを『我』とかいうのももうやめて、元通り『ぼく』っていうのに戻して……。
この世に生を受けて四年。
まだ四年ともいえるし、もう四年ともいえる──
この四年間は何だったのだ……。
地球の支配者になる夢を追って生きてきた。これからは一体何のために生きていけばいいのだ。
まぁ、ふつうの猫になるなら、答えは簡単だよね。
美味しいものを食べて、いっぱい遊んで、すやすや寝られればそれでいいもんね。
うん! ぼく、決めた!
ぼく、ふつうの猫になります!
とぼとぼ歩いていた足が元気になった。
もう黒王號もそのへんて脱ぎ捨てて、そうだ猫の町に帰ろう!
そう思って笑顔で踵を返すと、背後から何やら見慣れぬものが近づいてきていた。
巨大な何かだ……。あれは……?
人間の乗り物ではないかッ!? 黒王號などより遥かにかっこいい……
我は逃げた! ……しかし、回り込まれたッ!
中から出てきた青いボサボサの短い毛を頭から生やした人間が、我を銃で撃った。
うぅ……っ!?
こ、これは……
マタタビではないかッ!
ぼく、ふにゃふにゃにとろけて、その場でゴロゴロしはじめちゃった。
にゃ……、にゃ〜ん……。ゴロゴロ……。




