口喧嘩でこの女、殺す (秦野ユイ視点)
「……あなた、何をやってるの!?」
なんか突然現れた女に邪魔された。
……まぁ、べつに、相手にしなきゃ、いいか。
構わずわたしが手袋をはめ、引き続き3匹の酔っぱらった猫をビニール袋に詰めようとすると、その女が怒った声をだした。
「何やってるのかって、聞いてるの! 答えなさい!」
あ……。
命令形だ。ムカつく。
わたし、他人から何かを命令されるの、嫌いなのよね……。
好きなひとからの命令だったら逆になんでも聞いちゃうけどね。……キャ!
そんなことをわたしが妄想していると、そいつがさらに命令する、このわたし様に──
「その猫ちゃんたちを放しなさい!」
はぁ……?
コイツ、総司令官か何かのつもり?
思わず思いっきり陰鬱な目で睨んでやった。そしてさっきから思ってたことを聞いてやった。
「あんた……誰よ?」
「元NKUヤマナシ支部の隊員よ。あなたはトーキョー本部のひとね?」
あ、名前を名乗りやがらねぇ……。ムカつく。
じゃ、わたしも、名乗らない!
「……なんだ、支部のやつか。格下かよ。そういえばもう一人、隊員がいたって、岩石隊長さんが言ってたわね」
「トーマくんが来てるんでしょ?」
「……はぁ? 総司令官をくん付け? わたしらでもちゃん付けなのに? あんた、何様?」
「何をしに猫の町に来たの? 正直に教えなさい」
「……あぁ、元隊員ならちょうどよかったわ。猫を袋に詰めるのよ。手伝って」
「トーキョー本部へ連れて行って、実験材料にするのね? させないわ!」
「はぁ……? じゃ、あんた、何しにここに来たのよ? あんたもメロン食べに来たの?」
「ミチタカに呼ばれて来たのよ」
「ミ……?」
コイツ……
コイツ……!
ミチタカちゃんを呼び捨てーーー!?
わたしは猫3匹をほっといて、そいつに向き直った。何様、コイツ? 着ている白衣のすべてのポケットに隠したどれかの銃でいきなり撃ってやろうかしら。でも、はっきりさせなきゃ──そう思って、そいつに聞いた。
「アンタ……、ミチタカちゃんの、何?」
「友達よ」
即答したのがかえって怪しかった。
……わかった。
コイツ、ミチタカちゃんのストーカーだ!
しつこく彼につきまとって、嫌われて、それでも自分は好かれてると信じて……たぶん一回だけ彼から「かわいい」とかお世辞で言われたのを信じちゃって、勘違いしちゃったんだ。
わたしがミチタカちゃんを守ってあげなければ──
まずは悪口でへこませてやろう。
「……あんた、髪の毛真っ黒ね。……この泥臭い田舎者。都会人はね、髪の毛は何色かに染めるものよ」
ひひ……。これは痛いところを突かれたに違いない。
するとそいつは、言った。
「日本人なのに髪の毛青いとか気持ち悪い」
「……田舎者の考え方だわ」
ひきつりそうな頬を押さえ、わたしは言い返した。
「トーキョーではね、女の子はみんなカラーリングしてるのよ」
ほんとうだ。実際、わたしは青。アズサはピンク、松田さんはブロンド。本部に居残りしてる大井マドカは緑色。……他に女、おらんけど。
するとそいつは言った。
「髪の毛染めるなんて、おばさんならわかるけど、若いわたしがする必要ないと思う」
おば……
おば、おば……
おばさんだと?!
「せっかく艶々の黒髪を両親から貰ってるのに、傷めるなんて考えられないわ。……っていうか話を逸らさないで! その猫ちゃんたちを放しなさい!」
さらにほざくそいつにわたしは銃をポケットから一丁取り出し、向けた。
両親なんてアンタもいないでしょうに。わたしたちは皆、人工子宮の中で産まれ、施設のひとたちに育てられるもんでしょうが!
するとシャーー……と、ローラーシューズの音が聞こえ、近づいてきた。
丘を越えてジャンプして、青江トーマちゃんがすとんと着地した。
「キミは……」
ふざけた女の前に立つと、言った。
「誰だ?」




