メロン旨いッス……でも (中井アズサ視点)
猫のメロン畑に案内されたッス。
畑っていうから、畑を想像してたけど、そこはただのブナ林の中だったッス。
でも確かによく見ると、ブナのたもとから、緑色のヘタが伸びてて、まん丸なメロンがたくさん頭を覗かせてるわ。……なんだコレ。
松田さんが犬みてーに駆けだして、早速メロンにかぶりついたッス。行儀の悪さをたしなめたけど、理性飛んでるわ、コレ。まぁ、このひと根はアニマルッスからね。
ウチもまぁ、腹減ってたし、仕方なく口にしたッス。
うまいッスね……。
ふつうにうまいッス。
でも……
想像してみてほしいッス。
たくさんのゴキブリに囲まれて食うメシがうまいと思いますか?
どんだけ豪華でうまくて好物だったとしても、食欲なくすっしょ? フツー?
たくさんの猫に囲まれて、ウチの食欲メーターは限りなくゼロに近かったッス。
でも、夢中になったフリをして、食べ続けたッス。
そうしながら、指示されていた仕事をしてたッス。
トーマちゃんが隣にやって来て、小声でウチに聞いたッス。
「……どうだ? 秦野は? もう何匹か捕まえた頃か?」
ヘッドフォンを通じて、ウチはユイちゃんの服についた無線機の音声を聞いてたんッス。
アニマルな松田さんと違って、メロンなんかに仕事を忘れたりはしないッス。なんしろトーキョー本部のエリートッスからね。
若いとバカにされがちなんで、余計に力入れて頑張ってるんッスよ、これでも。
ヘッドフォンの中に、知らない女の声が聞こえて、ウチは首を傾げたッス。若い女の声ッス。……誰?
その女とユイちゃんがなんか言い争ってるみたいッス。口汚く罵りあいはじめたッス。女同士の口喧嘩って怖いッスね……。
ウチは総司令官に報告したッス。
「なんか知らない女、来てるみてーなんッスけど……」
「知らない女だと? 誰だ?」
「だから知らねーんですってば」
ただ、気になることをその女が口にするのを聞いた。
「……でも、むこうはトーマちゃんのこと知ってるみたいッスよ?」
「なぜだ?」
「『トーマくんが来てるんでしょ?』って言ってます。その女が」
「こんな田舎に知り合いはいないはずだが……」
総司令官も首を傾げたッス。
「……で、秦野は猫を捕まえたのか?」
「妨害されてるみたいッス」
「その女にか」
「激しく……。うわっ、汚ねー言葉飛ばし合ってるッス。聞いちゃいらんねー……」
「行って来る」
総司令官が立ち上がって、背を向けたッス。
「山原たちの注意を引きつけておいてくれ」
「らじゃッス!」
ブナの林の間を幽霊みてーに、総司令官が気配を消して、その場からいなくなったッス。




