メロンだ、メロンだ!
みんなの足取りが弾んでいた。
これからみんなでメロンを食べに行くんだ!
あんなにいらないと言い張ってた松田さんも、アズサちゃんも、青江総司令官まで顔がニコニコしてる。
ここにユカイがいたらきっと手がつけられなかっただろう。
俺もニコニコだ。
生まれて初めてぐらい、ニコニコだ。
メロンは心を溶かす。
みんなでメロンを食べて、これからもっと仲良くなるのだ。
今日、人間と猫の間に、およそ一万年振りの友好が、正式に結ばれるのだ!
一万年に一度の歴史的な記念日となるんだ!
これからは自由に猫の町に遊びに来ることができるようになる。
ユカイも好きな時に好きなだけメロンが食べられるようになる。
なんなら猫の町に住んじゃうのもいいかも?
着いた! 約3ヶ月振りのメロン畑だ!
天気もいいし、メロンを好きなだけ食べたらみんなで平和にお昼寝しよう。
そこにリッカも来てくれたらなんて素敵な一日になるだろう。
「さぁ、どうぞ。好きなだけお召し上がりくださいにゃ!」
マオが手を広げてそう言うと、松田さんが駆けだした。理性を失ったような笑顔なのでまたバカになったのかと思った。
「あら!」
松田さんがメロンを両手に持ってむしゃぶりつく。
「あらあら! あらあらあらあら美味しいですわ!」
「ちょっと松田さん……。行儀悪っ! まるで動物みたいッスよ?」
じとっと横目で睨みながら、アズサちゃんが一口、メロンを齧った。
「……ふーん。うまいッスね」
そう呟くと、あとはもう珍しく黙ってメロンに夢中になった。
山原隊長は既にご機嫌で、子猫たちに囲まれて口のまわりをメロンで緑色にしている。
青江総司令官の笑顔って、どんなのだろう?
やっぱり子どもらしく、かわいいのかな?
ここに来るまでの間もなんだか嬉しそうに顔がニコニコしてたけど、笑顔というよりは、単に機嫌がよさそうな顔ってだけだった。
メロンを口にしたら、ようやく子どもらしい笑顔が見られるのかな?
そう思って見ると、総司令官はメロンを食べてなかった。
何やら腕組みをして、あさってのほうを見つめている。
遠慮してるのかな?
それともメロンを口にしたら威厳が保てなくなるのを恐れてる……?
食べればいいのに。
メロンを食べて、笑顔になれば、総司令官とか雑魚隊員とか、人間とか猫とか、そんな堅苦しい垣根は取り払われて、みんなただのかわいい動物になれるのに……。
ほらほら。みんな笑ってるよ?
お日さまも笑ってる。
そうだ!
秦野さんも笑ってるかな?
あのひと、いつもどよーんと暗い顔してるけど、笑顔はかわいいんだよな。あのかわいい笑顔でメロンに夢中になってるのかな? と思って見回したけど、いない。秦野さんが、いない。
──どこ?
気になったので、マオと向かい合ってメロン食べ競争をしているマコトさんに、横から聞いてみた。
するとマコトさんは夢から覚めたみたいに顔を上げ、周りを見回し──
「なんてこと……。あのコ、影が薄いから気がつかなかったわ」
メロンどころじゃない! みたいに慌てて立ち上がった。
「秦野を一人にしてはダメ! 何をしでかすかわからない! ミチタカくん、探すわよ!」




