猫殺したいけど捕まえる (秦野ユイ視点)
来た……。
トーマちゃんから指令を言い渡された。
【実験用に猫を何匹か捕まえろ。捕まえたらトーキョーへ帰るぞ】
うふふ……。うふふふ……。
【殺してよし】じゃ、ないんだ?
でも……、きっと捕まえた猫を、本部に持って帰ったら、なんらかの実験に使って殺すのね?
ひひひ、ひひひひひひ!
この指令はわたしだけに伝えられた。
松田さんやアズサだと、捕まえる前に力技で殺してしまいかねないもんね。
わたしなら、体技を何も身に着けていないこのわたしなら、殺さずに生け捕りにできる。
まぁ、非力なわたしでも、蹴ったりすれば猫、死ぬかもしれないけどね。
うひひひひひひひひひひ!
……問題はミチタカちゃんの目を盗んでやらないといけないことだわ。
わたし、彼に嫌われたくない。
あの子、猫のことが本気で好きみたいだから、猫をゴミ袋に詰めてるところなんか見られたら、きっと嫌われちゃう!
他のひとの目はどうでもいいんだけどね。
海崎さんにだって嫌われてもいい。
だってわたしのこと「かわいい」って言ってくれたのはミチタカちゃんだけだから!
どうしよう……。
どうやって、ミチタカちゃんに見つからないように、猫を盗もう。
彼から見えない場所でやればいいって?
嫌よ! わたし、ずっと彼の見えるところにいたいんだもん!
そんなことを考えていると、総司令官がみんなに言った。
「……やはりメロンが食べたくなった。畑とやらへみんなで行こう」
そしてわたしに目配せをする。
……ナイス。
トーマちゃん、ナイス!
わたしは行かない。
松田さんとアズサは、総司令官からあれだけ言われてたのに、しぶしぶなフリして喜んでる。
「メロンは食べるな。ふつうにうまいメロンらしい。骨抜きにされるぞ」って言われてたのに、どう見ても内心食べる気満々。
わたしは行かない。
メロンなんかより、楽しいことがあるのよ。
メロンなんかに骨抜きにされるのは御免だわ。骨抜きにされるならミチタカちゃんにされたい。
そのミチタカちゃんも、メロンに夢中なら、放っておいてあげるのに胸も痛まないしね。
さぁ、何匹捕まえて、ゴミ袋に押し込めてやろうかしら。
それをトーキョーに持って帰って、どんなふうに殺してやろうかしら。
うふふ、うひひ、あはははは!
みんな、行った、メロン畑へ──
わたしもついて行くフリをして、すぐに木の陰に隠れた。
誰も気づいてない、トーマちゃんを除いて。
……まぁ、元々影が薄いからだよね、有名なわりに、いなくなっても気づかれないわたしだから。
ミチタカちゃんの後ろ姿が、林のむこうに消えた!
好機到来!
鬼の笑いを浮かべて振り返ると、猫がそこに3匹いた! 名前も紹介されてないようなモブ猫ばっかりだけど、構うもんか!
わたしは銃を懐から取りだすと、そいつらを撃った。
「にゃ……」
「ニャア〜……」
「ゴロゴロスリスリ……」
効いたわ、マタタビ銃。
やつらがとろけてる隙に、捕まえて──素手で触るのはゴメンだから、手袋をはめて捕まえて──ゴミ袋に……
「……あなた、何をやってるの!?」
聞き覚えのない声がして、わたしは後ろを振り向いた。
誰だ、この女──?
髪の長い、身体の細い、白い麻のワンピースを着た10歳代後半ぐらいの女が、そこに立っていた。




