猫国最高権力者マオ・ウの余裕(マオ視点)
(うるさいにゃー……)
後ろでドタバタと喧嘩が始まってるのはわかってる。
まったく……。ビキにゃんとブリキにゃんの仲の悪さ、どうにかしてほしい。
せっかく『ヌシ』さんと心の中で会話してるってのに、邪魔。
でも喧嘩するほど仲がいいっていうから、好きにすればいい。
あっ?
ちょっとウキがクンッって、動いた。
引き上げてみる。
小エビだった……。
エサのダンゴムシを取られちゃった。
ヌシさん──
ヌシさん、そこにおられますか?
急ぎません。ごゆっくりとでいいので、ボクの垂らしているダンゴムシに食いついてください。
猫が300匹いても食べきれないという、そのおっきな身体を見せてください。
……。
そんなのボク、釣り上げられるのかな……。
ま、いいや。
考えるのは苦手だから。
湖の上を魚が跳ねた。(おっ?)と思って見たけど、ヌシさんじゃなかった。鯉かな? 鯉じゃない?
……。
それにしても後ろがうるさい。
なんか聞き慣れない言語とかも混じってる。
何してるんだろう……。
……。
まっ、いっか。
にゃんにゃんにゃん。
そう思ってると、後ろから「がしっ!」と体を掴まれた。
『おい! マオ! 逃げるぞ!』
ビキにゃんだった。逃げる? にゃんで? 何から逃げるの? ヌシさんから? やだ。
『おいっ! マオ! ブリキとユキタローが止めてくれてるうちに……! あいつめっちゃ強い! メスのくせに!』
メスのくせに強い? ユキにゃんがそんなに強いだなんて知らないにゃ。
『立てっ! た、立て……よっ! なんて力で地面にへばりついてやがんだ!』
ボクはここをテコでも動かないにゃ!
ヌシさんにお会いできるまで、ヌシさんを釣り上げるまでは、たとえ明日になっても、1年後になってもうごかないーーッ!
『うっ……、うわーーっ! 来たぞ!』
『えっ? 何が?』
「ちぇすとーーっ!!!」
どっかーーん!
なんか重たい蹴りにふっ飛ばされた。
ビキにゃんがクッションになってくれたからダメージはないけど……
って、ビキにゃん……? ビキにゃーんっ!? 大丈夫!?
『テメーがのんびりしてやがるから食らっちまったじゃねェか……』
ビキにゃん!? 死んじゃやだにゃ!
『でも……、お前が無事で……、よかった……ぜ……』
そう言ってボクと一緒に長い滞空時間を飛びながら、ビキにゃんはフッと笑った。
やだ……! やだ……! ビキにゃん……、死んじゃ、やだ!
涙にビキにゃんの紫色の男らしい顔が霞んで行く。
口から流れる血が……あれ? 吐いてないぞ? カッ! と、ビキにゃんが閉じかかってた目をいきなり開けた。
『なーーーんてな! この運動神経抜群猫のオレ様が簡単にやられると思うか!?』
ビキにゃん……!
ボクは嬉しさで涙があふれまくった。
『猫は液体! 液化防御術でダメージを逃した!
さあっ、マオ! 駄々こねてねェで逃げるぞ! オレに死んでほしくないならな!』
『わかった! ビキにゃん! ボク、逃げるよ!』
力強くうなずいて、ボクはボクを抱いてた腕を離したビキにゃんの速い足について走り出した。
あとからユキにゃんもついて来た。ブリキにゃんがさっきの蹴りを放ったやつを牽制してくれてる。
……。
はて?
ボクらは何で、何から逃げてるの?




