猫の夢
……
にゃー……
にゃー にゃー
うにゃにゃかにゃー
とても嫌な声が聞こえる。
やめろ……
やめてくれ!!
目を覚ますと外はまだ暗く、簡易ベッドの上で俺は汗びっしょりだった。
うなされていたようだ。
上のベッドからさかさまになって心配そうな顔が覗き込んでいる。同僚のユカイだ。
「どうした、ミチタカ。悪い夢でも見たか?」
俺は答えた。
「……ああ。最悪の悪夢だった」
「メロンでも食い逃した夢か?」
「そんなもんじゃない……」
「じゃあ……」
思いつく限りの悪夢を並べ立てようとしたユカイを俺は遮り、打ち明けた。
「猫にじゃれつかれる夢だ」
「げっ!?」
ユカイが危うく二段ベッドの上から落ちて来そうになった。
「ななななんて恐ろしい夢を……!」
「死ぬかと思った。猫がな……、胸に飛びついて来て、顔をスリスリして来るんだ。
その上、喉をゴロゴロ鳴らしながら……」
「や、やめろーーー!!」
上に戻ったユカイの身体の震えでベッドがガタガタ揺れた。
「お、俺まで悪夢を見ちまいそうだ!
そんな恐怖体験みたいなの、聞くもんじゃなかった!」
すまない、ユカイ。
でもお前に拡散してやったおかげで俺はなんとか眠れそうだ。
猫……。
猫……恐ろしい。
(ΦωΦ) (ΦωΦ) (ΦωΦ) (ΦωΦ)
翌朝、寝不足の顔を井戸水を汲んで洗っていると、後ろから話しかけられた。
「おはよう、ミチタカくん」
振り向くと、山田先輩の猿顔があった。
「あ、おはようございます、さる……山田先輩」
「猿山って言おうとしたのか、今?」
「あ、いえ……」
俺は必死にごまかした。
「いい天気ですね」
さる……山田先輩はよく晴れた空を仰ぐと、にっこりしてくれた。
よかった、機嫌が悪くなるのをやめてくれたようだ。
「ミチタカくん、ニュースだ。今日、新人が入って来るそうだよ」
「新人!?」
初めて聞いたその言葉に俺は驚いた。
「人間って、僕ら以外にも他にいたんッスか?」
「何を言う。この地球上に人間が我ら6人だけだと思ったか?
少なくとも日本にだけでも千人はいると言われているぞ」
「千人もいたんッスか!? 凄い!」
「とりあえずそのことで隊長からお話がある。顔を洗ったらすぐに司令室へ来たまえ」
(ΦωΦ) (ΦωΦ) (ΦωΦ) (ΦωΦ)
司令室に行くとみんな揃っていた。
ビーグル犬の太郎丸も、お座りをして待っている。
一番最後に入って来た俺を、山原ゴウカイ隊長が睨むように見た。
「遅いッ! 冴木ミチタカっ! 貴様、たるんどるぞッ!」
「すいません! 隊長! 罰は受ける覚悟でおります!」
「貴様に罰なんぞ与えとる暇などあるかッ!
早く定位置に立てッ! 話はそれからだッ!」
相変わらずゴウカイ隊長は怖い。見た目も怖いけど、何より口が怖い。
怪獣みたいに大きく開いて、そこから罵詈雑言がめっちゃ飛び出すからな。
「隊長、今日は新人が入って来るらしいですね?」
俺を助けるようにユカイが話を変えてくれようとした。
しかし隊長の罵倒口調は変わらなかった。
「それを伝えるために皆を呼んだのだッ!
花井ユカイっ! このお調子者がッ! 私の先を越して貴様がバラしてどうするかッ!」
「アハハ」
山田先輩が笑った。
「笑うな、山田ジロウっ!」
「すみません」
反省する猿みたいなポーズで山田先輩が謝った。
「遠くトーキョー本部から新人が派遣されて来る」
ようやく隊長が話しはじめた。
「名前は轟マコト。かなり有能な隊員だと聞いておる。貴様ら、負けるなよ?
貴様らはこの私が育てたNKU隊員なのだからなッ!?」
「わんっ!」
太郎丸が元気よく返事をした。
「はーい」
5人全員、声を揃えて返事したけど太郎丸一匹の声に負けた。
「間抜けのような声を出すなッ!」
返事が気に入られなくて激怒された。
「話は以上ッ! 山田と海崎はデータの解析を始めいッ! 猫本は清掃だッ!
冴木と花井は食糧調達に行って来いッ! すぐにだッ!」
「隊長! ちょっといいですか?」
ユカイが何やら手を挙げた。
「何だッ?」
「ミチタカが昨夜、へんな夢を見たらしいんですよ」
なななな? なぜそんな話を隊長にする? ユカイ?
「へんな夢だとッ?」
「はい。夢の中で、猫になつかれたとか……」
「何いッ!?」
隊長が叫び、他の隊員達も恐怖の声を口々に漏らした。
「ひいッ!?」
「猫の夢なんて……!」
「しかもなつかれただなんて!」
「ミチタカ……。お前、食糧調達の前に、少しここに残れ。花井は少し待ってろ」
「はい……」
嫌な予感がしながら、俺はゴウカイ隊長とどうやら猫の話をすることになった。




