◆◆◆◆ 6-1 帝都炎上 ◆◆◆◆
■第六幕:
花のみやこが炎に包まれ、永代の宮城は血で染まること、かつまた玉座をめぐる数多の思惑のこと
帝都〈万寿世春〉――
大宙帝国の首都であり、数十万の人口を擁する大陸有数の大都市。
その花のみやこが――燃えている。
四方から炎が立ち昇り、夜ふけであるにもかかわらず、昼間のような明るさで市中を照らしている。
【 民 】
「火が、火が迫ってくる……!」
【 民 】
「あっちもこっちも燃えてやがる……門だ、門に逃げろ!」
【 民 】
「お父さん、お母さん……どこ……!?」
逃げ惑う人々の悲鳴があちこちから響くありさまは、この世の終わりであるかのようだった。
【 民 】
「見ろ、お城も……!」
【 民 】
「ああ――」
みやこの、帝国の象徴たる宮城からも、黒煙が立ち昇っていた――
そう、宮城内もまた、修羅場と化していたのである。
【 ランブ 】
「――ぬぅんっ!」
女帝の護衛たる武人、凪・ランブが、気合とともに右の手に持った斧を振るう。
すさまじい風圧とともに繰り出された斬撃は、狙いを外すことなく――
――ザシュッ!!
【 覆面の剣士 】
「……ガ……ッ!」
剣を手にして迫っていた覆面の男がまっぷたつに両断され、地に転がった。
【 ランブ 】
「――はぁあっ!」
さらに、左手に持った斧で地を薙ぎ払う。
――ゴウッ!!
と、唸るような音が響くと同時に、
【 覆面の剣士 】
「――グガッ――」
床を這うように迫っていた別の剣士の肢体が木っ端みじんに吹き飛び、四散した。
〈双豪斧〉の異名に恥じぬ、恐るべき驍勇ぶりである。
【 ランブ 】
「む……」
その左右の斧にはしかし、一滴の血も付着しておらず、無惨に吹き飛んだはずの屍も、いつの間にか消え失せていた。
【 ランブ 】
「人ならぬ、化生の類か――」
左右の手に斧を構え、ランブは眼前に群なす集団を睨みすえる。
【 ランブ 】
「何者であれ、この先は――通しはせぬ……!」
その凄まじい気迫に、人ならぬ身の異形たちでさえ、後ずさったかのようであった――
――また、別の場所では。
【 黒ずくめの刺客 】
「相手は一人……確実に仕留めよ!」
【 ミズキ 】
「やれやれ……躾が必要なようですね」
女官長ミズキが、徒手空拳で侵入者たちと対峙していた。
【 刺客たち 】
「…………っ!」
短刀を手にした黒衣の刺客が、一斉に殺到してくる――
【 ミズキ 】
「――――っ」
そこへミズキが右の手のひらを向けるや、
【 刺客たち 】
「がっ――あああッ!?」
見えざる何かが刺客たちの身を刺し貫き、続けざまにその場に崩れ落ちた。
倒れた者たちは、傷一つないにも関わらず、もはや息をしていない。
【 刺客たち 】
「な――」
生き残った者たちは、その異様な一撃に困惑し、思わず立ち尽くしている。
【 ミズキ 】
「招かれてもいない客人には――」
と、優雅に一礼して。
【 ミズキ 】
「すみやかに、お引き取り願いましょう」
不埒なる刺客たちと相対しつつ、ミズキは艶やかに微笑んでみせた――
そして一方、こちらでは――
【 セイレン 】
「ふははははは! かかりましたね! 我が秘策をもって、一網打尽にしてあげましょうっ!」
皇帝に仕える方士、〈幻聖魔君〉こと藍・セイレンが高笑いしていた。
【 異形の刺客 】
「――――っ……!」
迫ってくるのは、明らかに人ではないとわかる、絡繰り仕掛けの人形たち――
【 セイレン 】
「これぞ我が秘計――大地よ、崩れよっ!!」
セイレンが叫ぶや、轟音とともに地が裂け、刺客たちをことごとく呑み込む――はずであったが。
……シーン……
【 セイレン 】
「……おや?」
【 刺客たち 】
「…………っ」
……床はわずかにひび割れただけで、ただの一体も呑み込まれはしなかった。
【 セイレン 】
「うーむ、仕掛けが甘かったようですね……まあ仕方ありません、ならば次なる策を――」
しかし、刺客たちが呑気に待ってくれるはずもなく。
【 セイレン 】
「あっ、ちょっ、あわわっ……少しお待ちを……おおうっ!?」
次々と襲いかかってくる刺客たちの刃から、必死の形相で逃げ回る幻聖魔君であった。
そして、奥の間においては――
【 ホノカナ 】
「……っ、皆さん、大丈夫でしょうか……?」
【 ヨスガ 】
「案ずることはない。みな、しぶとい連中ゆえな」
女官の鱗・ホノカナが、皇帝にして義姉たる焔・ヨスガに付き従っていた。
【 ホノカナ 】
(……っ、こんなことに、なるなんてっ……)
ほんの数刻前までは、予想もしていなかった。
【 ホノカナ 】
「どうして、こんなっ……」
ヨスガより預かった御佩刀を、ギュッと握り締めるホノカナ。
【 ヨスガ 】
「――嘆いている場合ではなさそうだぞ」
【 ホノカナ 】
「…………!」
ズルッ……ズルルッ……!
部屋の奥から、なにかが、這い出てこようとしている。
今まさに、恐怖と脅威が形となって、彼女たちの眼前に現れようとしていた――
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