◆◆◆◆ 5-39 助っ人 ◆◆◆◆
【 シュレイ 】
「大事ないか、シンセ……!?」
【 シンセ 】
「……はい、なんと、か……」
シンセが担ぎ込まれた幕舎へ飛び込んだシュレイだったが、返事があったことにひとまず安堵した。
しかし、その痛々しい姿に、つい目を逸らしてしまう。
【 シュレイ 】
「……すまん。無理をさせた」
【 シンセ 】
「いえ……不甲斐ない、かぎりです……アイリ様の援護がなければ、今頃、は……」
【 シュレイ 】
「やはり、あれはアイリ殿か……礼をせねばならぬな」
土壇場の剣の一撃がなければ、どうなっていたかわからない。
【 シンセ 】
「恐るべき、呪術でした……私と、神鴉兵二千の方術と、互角、とは……」
【 シュレイ 】
「あちらにも、呪兵がいるのかもしれぬが……ともあれ、これで心胆を寒からしめてやっただろう」
【 シンセ 】
「神鴉兵たちも、力を、使い果たした様子……しばらくはお役に立てそうになく……面目ありません……」
【 シュレイ 】
「なに、当面はあちらも動くまい。……助かった、シンセ。今は身体を休めてくれ」
【 シンセ 】
「……お、お気になさらず……貴方様のためならば、私、はっ……」
立ち上がろうとするが、それだけでも息を弾ませている。
【 シュレイ 】
「もういい、休んでいてくれ。今はそれが、私の望みだ」
【 シンセ 】
「……っ、は、い……」
【 アグラニカ 】
「いやぁ、参りました! 宙の呪術師もやるものですねぇ」
森羅軍の幕舎では、女王アグラニカが舌を巻いていた。
他の将兵の目もないので、くだけた口調で汗を拭っている。
【 ウツセ 】
「いえ……陛下にはとうてい及びもつきますまい」
ウツセはウツセで、アグラニカの呪力に圧倒されていた。
敵方の方士は、麾下の兵たちと力を合わせていたようだが……アグラニカはただひとりで、互角以上に渡り合っていたのだから。
【 ウツセ 】
(これが、森羅の女王の力……!)
【 アグラニカ 】
「これが地元だったら、もっとやれるんですけど……守り神さまからだいぶ離れちゃってるから、加護が薄れちゃってるんですよね。あー! 悔しい!」
などと唇を尖らせている様子は、年相応の娘のようなのだが。
【 アグラニカ 】
「見てくださいよ、左、ぜんぶ持っていかれちゃった」
【 ウツセ 】
「…………っ」
アグラニカの左腕を見て、ウツセは目を見開いた。
あれだけ描かれていた刺青が、今やほとんど消え失せている。
【 ウツセ 】
「これは……大丈夫なのですか?」
【 アグラニカ 】
「別に痛みとかはないんですけどね……ここに記してあった刺青ひとつひとつに呪力がこもってたんですけど、さっきので使い果たしちゃいました」
【 アグラニカ 】
「はぁ……また刺青入れるの大変だなぁ」
【 ウツセ 】
「そ、そういうものですか……」
アグラニカのほぼ全身に刺青が施されていることは知っていたが、ただの飾りではなかったらしい。
【 ヴァンドーラ 】
「――先ほどは助かり申した。貴殿の叱咤なくば、大崩れしていたかもしれませぬ」
ヴァンドーラがウツセに感謝を述べる。
【 ウツセ 】
「いえ、これしきのこと……しかし、これからどう動くか、難しくなってきましたな」
【 アグラニカ 】
「そうねぇ……ウツセ殿はどう思います?」
【 ウツセ 】
「左様ですな……」
損害覚悟で決戦を挑むべきか、それとも別の手を打つべきか……
【 ウツセ 】
「敵方の方士が力を失っているようなら、今が攻め時ですが……にわかには判断できませんね」
【 シュレイ 】
「ふぅ……」
己の幕舎に戻り、シュレイは嘆息した。
参謀として動いたことはあっても、みずからこれほどの大軍を率いたのは初めてであり、思いのほか疲労が溜まっている。
【 シュレイ 】
(だが、この程度で……)
泣き言を口にするわけにはいかない。
まだまだ、これからなのだから――何事も。
【 シュレイ 】
(それにしても、森羅の呪術……あれほどとはな)
虎の子の神鴉兵を、ただ一戦で地に堕とすとは……想像以上の難物だ。
明日以降、再び呪術合戦を仕掛けられたなら、お手上げだが――
【 シュレイ 】
(他の兵を神鴉兵に偽装させるか? だが、その程度のごまかしでは……)
シュレイが苦慮していると、
【 シンセ 】
「従兄様――」
【 シュレイ 】
「……っ? シンセ……」
ふいに幕舎へと入ってきたシンセに、シュレイは困惑する。
先ほどまでは身体を起こすのもつらそうだったのに、今は普通に自分の足で歩けている。
【 シュレイ 】
「どういうことだ? 内丹を使ったのか?」
方術には、陰陽の気を体内で操り、肉体を活性化させる内丹と呼ばれる術もある。
だが、それにしても回復が早過ぎるようであった。
【 シンセ 】
「はい、内丹も用いていましたが……あちらの方が――」
シンセに続いて、一人の男が入ってきた。
【 顔色の悪い男 】
「ふ、ふふふふ……大変そうですねぇ、楽師兄――」
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