◆◆◆◆ 5-34 密書 ◆◆◆◆
【 ヤクモ 】
「まずは一杯……と言いたいが、戒律があるのでしたかな」
【 ゾダイ 】
「よくご存じで……デスが、般若湯ならば、一杯くらいは頂戴いたしマス!」
つまり、酒でない酒ならいいというような理屈らしい。
そういうことなら……と、ヤクモは飛鷹の民が好む馬乳酒を振る舞った。
【 ゾダイ 】
「ゴクゴク……おお……これは珍味デス! マコトにかたじけなく!」
大いに喜ぶ姿に、ヤクモもつい頬をほころばせる。
【 ヤクモ 】
「ゾダイ殿は、宙に来られていかほどに?」
【 ゾダイ 】
「さて、どれほどでしたか……もう四、五年にもなりましょう!」
【 ヤクモ 】
「よく〈銀劔関〉を抜けられたものですな」
銀劔関とは、北方諸国と宙北部の間にある巨大な関塞であり、難攻不落として知られている。
この銀劔関を通過せねば、北方から宙に入るのはほとんど不可能といっていい。
【 ゾダイ 】
「ハイ、法を尊ぶ者は各地におりマスので……おっと、これはどうか内密に……!」
【 ヤクモ 】
「なるほど。……銀劔関は葉という部将が守っているはずですが、お会いになりましたかな。私と同年代の男ですが」
【 ゾダイ 】
「あぁ……そういう方もおられたような……? とにかく、無事に抜けられました!」
【 ヤクモ 】
「ほう、左様で……苦労を重ねたご様子だ」
ヤクモは頷きつつ、馬乳酒を飲み干した。
【 ヤクモ 】
「さて。……そろそろ、本当の用件をうかがおうか」
【 ゾダイ 】
「…………」
尼僧ゾダイは口をつぐんだ。
【 ゾダイ 】
「……なぜ、お気づきに?」
【 ヤクモ 】
「なに、他愛のない話でな」
ヤクモは微笑した。
【 ヤクモ 】
「ただの旅の僧にしては、身のこなしに隙がなさすぎる。聖職者ではあるのだろうが、それにしても――な」
【 ゾダイ 】
「…………」
【 ヤクモ 】
「なおいえば――銀劔関は、とうに“落ちている”。これは、宙のほとんどの者が知らぬことだが」
【 ゾダイ 】
「なんと……!?」
【 ヤクモ 】
「まぁ、それはいいとして……まことの用件をうかがおう、ゾダイ殿」
【 ゾダイ 】
「――お見それいたしました。そこまでお見通しならば、もはやごまかしもいたしますまい」
ゾダイは一礼し、言葉遣いも改めると、懐から書状を取り出した。
【 ゾダイ 】
「拙僧が参上したのは、これをお渡しするためです」
【 ヤクモ 】
「これは――」
送り主の名を見て、ヤクモは目を見開いた……
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