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【第一部完結】薄明のエンプレス~大宙帝国興亡記~  作者: おおがみ陣矢
第一部 「落華流帝」編
83/421

◆◆◆◆ 5-28 緒戦 ◆◆◆◆

【 ウツセ 】

鶴翼かくよく陣――しかしこれは、まるで生き物のような……!」


 数万の宙兵が左右に分かれ、じわじわと河を渡り始める。

 だがその動きはあまりにも整然としており、あたかも本物の翼であるかのようだった。


【 ヤクモ 】

「ふむ……グンムめ、もともと用兵の名手ではあったが……これほどとはな」


 兵を手足のごとく動かす――とはいうものの、そこには将の器量もさることながら、兵の練度も不可欠である。


【 ヤクモ 】

(主力は実戦経験も乏しく、士気も低い禁軍(近衛兵)のはずだが……大したものよな)


 堂々たる敵の進軍ぶりを眺めながら、ヤクモは感嘆した。


【 ヤクモ 】

(まあ、なにか仕掛けがあるのかもしれぬが)


【 ウツセ 】

「将軍、ここは――」


【 ヤクモ 】

「退くべき、と?」


【 ウツセ 】

「……っ、やむなしかと……」


 さしものウツセもいささか色を失っている。


【 ヤクモ 】

「まあ、そう焦るな」


 ヤクモは悠々と髭をひねり、どこ吹く風という様子で、弟子に道を説く師のごとく、敵陣を指す、


【 ヤクモ 】

「動いているのは、第一陣のみ――せいぜい、二万というところであろう」


【 ヤクモ 】

「ここで迂闊うかつに下がれば、兵が浮き足立つ。総崩れになりかねぬぞ」


【 ウツセ 】

「――はっ、では、いかように……?」


 ヤクモの見立てに感服しつつ、ウツセが問う。


【 ヤクモ 】

「ウツセよ」


 無数の傷が残る顔に、不敵な微笑みをうかべる老将。


【 ヤクモ 】

「焦るな、といっておろう?」




【 シュレイ 】

「――いっこうに、動きはありませんな」


【 グンム 】

「相変わらず腹が据わっていやがる、あのじいさんは」


 櫓の上から敵陣の様子を眺め、グンムは苦笑いした。


【 グンム 】

「せっかく老師に骨を折ってもらったのに、申し訳ないことだ」


【 シュレイ 】

「いえ、たかが小手先技なれば」


 シュレイの方術を用いた伝令による、時間的なズレのない整然きわまりない鶴翼陣の展開――

 あわよくばこれで敵の意気をくじき、引かせてやろうというグンムの腹だったが、敵もさるもの、まるで乗ってはこなかった。


【 シュレイ 】

「さすがに、宙屈指の名将と呼ばれただけのことはあるようで……」


【 グンム 】

「相手の主力たる飛鷹ひようの騎兵はめっぽう手強いが、いったん守勢に回るとひどくもろい」


【 グンム 】

「さっさと逃げを打ってくれると、いろいろ楽だったんだが……ま、仕方ないさ」


 攻めの一手が崩れても気落ちした様子もなく、


【 グンム 】

「先鋒軍に伝令だ。小細工は無用、正面からかかれ――とな」




【 ウツセ 】

「閣下――」


【 ヤクモ 】

「うむ」


 宙軍が動き出したのを見て、ヤクモが頷いてみせる。


【 ヤクモ 】

「タイザンに伝えよ。迎え撃て――と」

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