◆◆◆◆ 5-26 乱入 ◆◆◆◆
宙の陣から、一騎の武者が疾風のごとく飛び出していった。
【 タシギ 】
「いつまでもダラダラと――長ったらしいんだよ、うすのろがっ!」
痺れを切らしたのか、宙の将〈血風翼将〉銀・タシギが、黒鹿毛の馬を駆って二騎のもとへ迫っていく。
【 グンロウ 】
「――っ!? 貴様っ、邪魔をするな! 助太刀などいらぬっ……!」
【 タシギ 】
「はぁ~っ? アンタを助ける義理なんかねーし! アタシはやりたいようにやるだけだってのっ……!」
タシギは左右の腰から曲刀を抜き放つと、一気呵成にドリュウの間合いへと飛び込み――
【 ドリュウ 】
「ぬううっ……!?」
【 タシギ 】
「アハハッ! 一番首、も~らいっ♪」
タシギの両刃が妖しく閃き、ドリュウの喉頸へと肉迫する――
――キィンッ!!
【 タシギ 】
「ん、なっ……!?」
――間一髪、はるか彼方から飛来した矢が、タシギの一撃を阻止していた。
【 ミナモ 】
「名誉ある一騎討ちを妨害するなど、武人の風上にもおけませんわっ! なます斬りにして河にまき散らして、魚のエサにしてさしあげますっ!」
颯爽と白馬にまたがり、弓を手に駆け参じてくるのは、翠家のご令嬢たる姫将軍、翠・ミナモである。
【 ドリュウ 】
「おおっ――〈神弓姫〉っ!」
【 タシギ 】
「アバズレがっ……! てめえから死にたいかよっ!!」
タシギは怒りに髪を逆立て、弓の持ち主へと襲いかかる。
【 ミナモ 】
「小賢しいですわっ! 宙の弱将ごときが、このわたくし、翠・ミナモを相手にしようなどとっ!」
ミナモは槍を構え、タシギを正面から迎え撃つ。
【 タシギ 】
「翠――あの老いぼれの娘かっ! ちょうどいいっ、真っ先に血祭りにあげてやるよっ……!」
【 ミナモ 】
「ふん、口だけは達者な三下ですわね! せいぜい手並みを見せていただきますわっ!」
【 タシギ 】
「お嬢様の手習い芸が、アタシに通じるかよっ! くたばりやがれっ!」
血風翼将は左右の二刀を変幻自在に操り、神弓姫の喉笛を切り裂かんとする。
もちろんミナモもそうはさせじと、槍を躍らせタシギの凶刃をさばき、その身を貫かんと突きを繰り出す。
【 ミナモ 】
「多少はやるようですわね――ですけれど、森羅の強者にはとうてい及ばぬ、子供だましの邪剣ですわ!」
【 タシギ 】
「抜かせっ! そのおしゃべりな舌引っこ抜いて、馬のクソでフタしてやるよっ!」
グンロウとドリュウの戦いがこわばった岩同士のぶつかり合いなら、この(見かけだけは)可憐な佳人同士の立ち合いは、さながら風に舞い散る花と花のごとく、見る者の目を奪ってやまない。
【 ドリュウ 】
「おお、見事――見事なり! こちらも後れを取れるものかっ!」
【 グンロウ 】
「それはこちらのセリフよ……! その首、兄者の馬前に捧げてくれる!」
美女ふたりに刺激され、巨漢ふたりもいっそう荒々しく打ち合い、幾度となく空を裂く鮮烈なる一撃を放ち、削り合う。
かくして、グンロウとドリュウ、タシギとミナモが刃を交え、一進一退の攻防を繰り広げる。
両軍の兵は固唾を飲み、四騎の戦いに熱視線を送っていた――
そんな中、冷徹なまでに状況を見定めている者もいた。
【 グンム 】
「あれは、翠家のお嬢様か? ずいぶん大きくなったもんだな」
櫓の上から観戦しつつ、グンムがつぶやく。
かつてヤクモが官軍に属していた頃、陣中で遊んでいた愛らしい童女のことが思い出された。
【 シュレイ 】
「今は、往時を偲んでいる場合ではありますまい」
【 グンム 】
「ああ、それもそうだ。そろそろ頃合いだろう、お願いしようか」
【 シュレイ 】
「されば――」
シュレイが手にした紙の束を空に投げ、
【 シュレイ 】
「――“律”!」
と印を結ぶや、紙はたちまち隼へ変化し、四方へと羽ばたいていった。
それからほどなくして、宙軍の陣地に変化が起きる――
ブックマーク、ご感想、ご評価いただけると嬉しいです!




