◆◆◆◆ 5-20 参戦 ◆◆◆◆
【 ユイ 】
「ご無沙汰しております、嶺将軍――」
グンムのもとに通されてきたのは、虎王・ユイであった。
【 グンム 】
「おお、よくぞおいでくださった。タイシン殿はご息災かな?」
【 ユイ 】
「ええ、本当は姐さん――焦大姐がみずから足を運ぶところでしたが、なんでも、北方でやることがあるとかで」
【 グンム 】
「ほう……? ともあれ、まずは一杯――」
【 ユイ 】
「こりゃあどうも」
と、互いに盃を傾け合ったところで。
【 ユイ 】
「行軍は順調のようで、なによりでした」
【 グンム 】
「はは、王師征くところ敵なし――といいたいところですが、まだここからですからな」
*王師……帝王の軍勢。
【 グンム 】
「それもこれも、タイシン殿のおかげというもの……糧秣はもとより、軍事物資の調達にも手抜かりなく、大変助かっております」
【 ユイ 】
「そりゃよかった。まぁ、自分はよくわかっていないんですがね」
【 シュレイ 】
「――それにしても、十万の兵の兵糧をたやすく準備するとは、さすがは焦大人ですな」
【 ユイ 】
「――――っ? あ、あぁ、楽老師でしたか。仮面なんぞつけてるから、わかりませんでしたよ」
幕舎に入ってきたシュレイに、戸惑いの目を向けるユイ。
【 シュレイ 】
「これは失礼……なにかと、事情がございまして」
【 ユイ 】
「ははぁ……」
ユイは怪訝な顔をしつつも、深くは追及せず、
【 ユイ 】
「糧秣の方は、〈天壌倉〉から運び出してるって話です」
【 グンム 】
「ほう、天壌倉といえば、峰西の――」
天壌倉とは、峰西地方にある巨大な食糧備蓄倉庫である。
そこには無尽蔵ともいわれる、莫大な物資が貯蔵されているのだ。
【 シュレイ 】
「では、峰西の〈愛憫公主〉と話をつけたのですな……!」
愛憫公主こと〈焔・レッカ〉は宙の皇族にして、峰西地方を実効支配する軍閥の当主である。
半独立状態ながら帝国には忠実であり、可能なかぎり貢物も献上している。
その愛憫公主が守っているのが、他ならぬ天壌倉なのだ。
【 ユイ 】
「自分は同行していませんが、いろいろ交渉したようで……その流れで、北のほうであれこれやっているのかもしれませんな」
【 グンム 】
「なるほど……」
グンムは感心しつつも、
【 グンム 】
(あの商人、なにを企んでいるのやら……?)
と、内心では訝しんだ。
【 グンム 】
「ところでユイ殿、こちらには合戦の見物に?」
【 ユイ 】
「いえ、まさか。焦大姐からは、一仕事してくるように――と言われております。いささかなりとも、お力になれればと」
【 グンム 】
「ほう――それは心強い!」
このときばかりは、グンムも心からの笑みをうかべた。
【 グンロウ 】
「――失礼するっ! おお、ユイ殿っ! 久しいな! さぁ、一杯やろうではないかっ! さぁ、さぁっ!」
【 ユイ 】
「ちょっ、グンロウ殿っ……し、失礼します!」
飛び込んできたグンロウに引きずられるようにして、ユイは天幕から出ていった。
【 シュレイ 】
「忍びの名人、風雲忍侠――ですか。ぜひ、一仕事お願いしたいものですが」
【 グンム 】
「おいおい、まさか翠将軍の首を取ってきてもらおう、なんて考えてるんじゃあるまいな」
【 シュレイ 】
「まさか。それもひとつの手、としては考えられますが……いろいろな意味で無理筋でしょう」
と、かぶりを振るシュレイ。
【 グンム 】
(――だが、この男ならやりかねないのが、おっかないところだ)
グンムはそう思いつつも、
【 グンム 】
「まあ、じっくりいくとしよう。何事も、性急さは身を滅ぼすってもんだ」
【 シュレイ 】
「まことに――」
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