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【第一部完結】薄明のエンプレス~大宙帝国興亡記~  作者: おおがみ陣矢
第一部 「落華流帝」編
75/421

◆◆◆◆ 5-20 参戦 ◆◆◆◆

【 ユイ 】

「ご無沙汰しております、レイ将軍――」


 グンムのもとに通されてきたのは、虎王コオウ・ユイであった。


【 グンム 】

「おお、よくぞおいでくださった。タイシン殿はご息災かな?」


【 ユイ 】

「ええ、本当は姐さん――ショウ大姐がみずから足を運ぶところでしたが、なんでも、北方でやることがあるとかで」


【 グンム 】

「ほう……? ともあれ、まずは一杯――」


【 ユイ 】

「こりゃあどうも」


 と、互いに盃を傾け合ったところで。


【 ユイ 】

「行軍は順調のようで、なによりでした」


【 グンム 】

「はは、王師おうし征くところ敵なし――といいたいところですが、まだここからですからな」

 *王師……帝王の軍勢。


【 グンム 】

「それもこれも、タイシン殿のおかげというもの……糧秣はもとより、軍事物資の調達にも手抜かりなく、大変助かっております」


【 ユイ 】

「そりゃよかった。まぁ、自分はよくわかっていないんですがね」


【 シュレイ 】

「――それにしても、十万の兵の兵糧をたやすく準備するとは、さすがはショウ大人たいじんですな」


【 ユイ 】

「――――っ? あ、あぁ、ガク老師せんせいでしたか。仮面なんぞつけてるから、わかりませんでしたよ」


 幕舎に入ってきたシュレイに、戸惑いの目を向けるユイ。


【 シュレイ 】

「これは失礼……なにかと、事情がございまして」


【 ユイ 】

「ははぁ……」


 ユイは怪訝けげんな顔をしつつも、深くは追及せず、


【 ユイ 】

「糧秣の方は、〈天壌倉てんじょうそう〉から運び出してるって話です」


【 グンム 】

「ほう、天壌倉といえば、峰西ほうせいの――」


 天壌倉とは、峰西地方にある巨大な食糧備蓄倉庫である。

 そこには無尽蔵ともいわれる、莫大な物資が貯蔵されているのだ。


【 シュレイ 】

「では、峰西ほうせいの〈愛憫公主あいびんこうしゅ〉と話をつけたのですな……!」


 愛憫公主こと〈エン・レッカ〉は宙の皇族にして、峰西地方を実効支配する軍閥ぐんばつの当主である。

 半独立状態ながら帝国には忠実であり、可能なかぎり貢物も献上している。

 その愛憫公主が守っているのが、他ならぬ天壌倉なのだ。


【 ユイ 】

「自分は同行していませんが、いろいろ交渉したようで……その流れで、北のほうであれこれやっているのかもしれませんな」


【 グンム 】

「なるほど……」


 グンムは感心しつつも、


【 グンム 】

(あの商人あきんど、なにを企んでいるのやら……?)


 と、内心ではいぶかしんだ。


【 グンム 】

「ところでユイ殿、こちらには合戦の見物に?」


【 ユイ 】

「いえ、まさか。焦大姐からは、一仕事してくるように――と言われております。いささかなりとも、お力になれればと」


【 グンム 】

「ほう――それは心強い!」


 このときばかりは、グンムも心からの笑みをうかべた。


【 グンロウ 】

「――失礼するっ! おお、ユイ殿っ! 久しいな! さぁ、一杯やろうではないかっ! さぁ、さぁっ!」


【 ユイ 】

「ちょっ、グンロウ殿っ……し、失礼します!」


 飛び込んできたグンロウに引きずられるようにして、ユイは天幕から出ていった。


【 シュレイ 】

「忍びの名人、風雲忍侠――ですか。ぜひ、一仕事お願いしたいものですが」


【 グンム 】

「おいおい、まさかスイ将軍の首を取ってきてもらおう、なんて考えてるんじゃあるまいな」


【 シュレイ 】

「まさか。それもひとつの手、としては考えられますが……いろいろな意味で無理筋でしょう」


 と、かぶりを振るシュレイ。


【 グンム 】

(――だが、この男ならやりかねないのが、おっかないところだ)


 グンムはそう思いつつも、


【 グンム 】

「まあ、じっくりいくとしよう。何事も、性急さは身を滅ぼすってもんだ」


【 シュレイ 】

「まことに――」


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