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【第一部完結】薄明のエンプレス~大宙帝国興亡記~  作者: おおがみ陣矢
第一部 「落華流帝」編
74/421

◆◆◆◆ 5-19 従兄妹 ◆◆◆◆

 一方、参謀たるガク・シュレイの姿は、本陣からすこし離れた陣にあった。

 他の陣地では将兵が振る舞い酒を楽しんでいたが、ここではそんな気配もなく、峻厳しゅんげんとした気配が満ちている。


【 シュレイ 】

「――異状はないようだな」


【 仮面の女 】

「はい、今のところは」


 幕舎の中で、シュレイは黒づくめの仮面の女と対峙していた。


【 シュレイ 】

「軍規は行き届いているようだ。まぁ、今日くらいはすこし緩めても構わないのだが」


【 仮面の女 】

「酒を食らって馬鹿騒ぎするだけが、楽しみではありませんから」


【 シュレイ 】

「まぁ、それはそうだ」


 シュレイは苦笑した。


【 シュレイ 】

レイ将軍が感謝していた。従妹殿のおかげで、安心できる――とな」


【 仮面の女 】

「アイリ様は、手のかからない御方です。時おり、取り乱すこともありますが……」


【 シュレイ 】

「私も、シンセには感謝している。お前がいてくれて、とても心強い」


【 シンセ 】

「……身に余るお言葉です、従兄にい様」


 〈ガク・シンセ〉は一礼した。


【 シンセ 】

「例の、城取り争い……我らも出陣させていただければ、手並みをお見せできたのですが」


【 シュレイ 】

「確かに、〈神鴉兵しんあへい〉をもってすればそこらの城市など敵ではなかろうが……この軍は、いわば対・森羅しんら軍の切り札だ。そうそう表に出すわけにはいかん」


【 シンセ 】

「なるほど……出過ぎた物言いでした」


【 シュレイ 】

「いや……神鴉兵を任せられるのはお前の他にはいない。誰よりも頼りにしている」


【 シンセ 】

「私には過ぎた任務ですが……粉骨砕身、務める所存です。従兄様のために」


【 シュレイ 】

「……苦労をかける」


【 シンセ 】

「貴方様のためならば……なにほどのこともございません」


【 シュレイ 】

「…………」


 シュレイは、出征以来、人前ではつねに着けている覆面に手をかけて、外した。


【 シンセ 】

「……おやつれになられて」


 シンセがシュレイの頬を撫でる。


【 シュレイ 】

「十万の兵を仕切る重責を担えば、そうもなる。だが……」


【 シンセ 】

「…………っ」


 シュレイに抱擁され、シンセもまた抱き返した。

 それは、従兄妹同士の親愛の情――というには、いささか度がすぎているようであった。


【 シュレイ 】

「……止まるわけにはいかんのだ。ようやく、大願が成就しつつあるのだからな」


【 シンセ 】

「はい……」


【 シュレイ 】

「……そのあかつきには、お前と……」


【 シンセ 】

「……っ、人がまいります」


【 シュレイ 】

「む……」


 シュレイはすかさずシンセから離れ、仮面をつけた。


【 従者 】

ガク老師、こちらに――?」


【 シュレイ 】

「どうした、急用か?」


【 従者 】

「は、本陣に来客がございまして」


【 シュレイ 】

「わかった、すぐに戻る」


 そう応じ、シュレイは背を向けた。


【 シュレイ 】

「では、よろしく頼む、シンセ」


【 シンセ 】

「はい――従兄様」


 シュレイが慌ただしく去ったあと……


【 シンセ 】

「…………」


【 シンセ 】

「貴方様のためなら、私は――」


 男の温もりを惜しむかのように、女は我が身を抱いた……

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