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【第一部完結】薄明のエンプレス~大宙帝国興亡記~  作者: おおがみ陣矢
第一部 「落華流帝」編
72/421

◆◆◆◆ 5-17 凶刃 ◆◆◆◆

【 タシギ 】

「ふん……あ~あ、気分悪ぅ。変なのが出てきたせいで、アタシの手柄、台無しじゃ~ん」


【 レツドウ 】

「――だが、十分に気は晴れたであろう」


【 タシギ 】

「まぁねぇ~。ず~っとご無沙汰だったしぃ~♪」


 ギン・タシギの姿は、総司令たるラク・レツドウの幕舎にあった。


【 タシギ 】

「閣下が景気よかったころは、アタシの仕事もいっぱいあったのにねぇ~。よっぽど、ヨソに乗り換えちゃおっかな~って思ったんだからぁ」


【 レツドウ 】

「ふん、お前のような凶刃を扱える者が他にいるとでも?」


【 タシギ 】

「アハハッ! まあ、そうかもねぇ~~」


 〈血風翼将〉ことタシギは、言うなれば宰相レツドウ子飼いの将である。

 血を好む凶暴な性質たちゆえ、本来ならとうに追放されるか、処断されていてもおかしくなかったが、レツドウが特別に目をかけ、今なお禁軍の士官の地位にあった。

 その見返りに、タシギは宰相のため、時には口にするのもはばかられるような汚れ仕事を請け負ってきたのである。


【 レツドウ 】

「さしあたりは、グンムに大人しく従っておけ。機会が訪れるまでは――な」


【 タシギ 】

「はぁ~い。その機会ってのがきたら、あの大将、ぶっ殺せばいいんでしょぉ? あのデカブツもさぁ……!」


 楽しみでならない、と言いたげにペロリと唇を舐める。


【 レツドウ 】

「……それは、時と場合による。短慮で動くな。指示を待て」


【 タシギ 】

「は~いはいはい、どうせアタシは狂犬ですよぉ~っと」


【 レツドウ 】

「そうねるな。大事だいじが為れば、将軍……いや、大将軍の地位を授けてやろう」


【 タシギ 】

「アハハッ! いいねぇ~、大将軍サマとなれば、好きなだけ戦争やって、好きなだけ殺せるんでしょぉ? 楽しそぉ~~っ♪」


【 レツドウ 】

「そのためにも、今は自重しろ。よいな?」


【 タシギ 】

「はぁ~い、わかりました、宰相閣下ぁ」


 タシギは肩をすくめ、レツドウの幕舎を出ていった。


【 レツドウ 】

「――誰かある」


【 従者 】

「はっ……」


【 レツドウ 】

「香を焚け。血生臭くてかなわん――」


 レツドウは顔をしかめながら、そう命じた。




【 タシギ 】

(フン……な~にが大将軍だか)


 レツドウの陣を離れたタシギは、内心で冷笑していた。


【 タシギ 】

(人を猟犬くらいにしか思ってないくせに、よく言うよ……まあ、お偉いさんなんてのは、みんな似たようなもんだけど)


【 タシギ 】

大事だいじ、ねぇ……ま、アタシは好きにやれるなら、誰が勝とうが負けようが、どうだっていいけどさぁ――)


 さすがに血が乾いて鬱陶しくなってきたし、湯浴みでもしようかと歩み出したタシギだったが、


【 タシギ 】

「――――っ」


 ふと、なにかを感じ取ったかのように足を止めた。


【 タシギ 】

「――誰だ?」


 その手が、腰の得物に伸びる。

 姿は見えないが、気配を感じる――


【 ???? 】

「俺の隠形おんぎょうに気づくたぁ、腕は落ちてねぇらしいな」


【 タシギ 】

「――――っ」


 暗がりの中から、人影が浮かび上がってくる。


【 タシギ 】

「アンタ……〈風雲忍侠ふううんにんきょう〉か!」


【 ユイ 】

「久しいじゃねぇか、〈血風翼将けっぷうよくしょう〉――」


 闇から姿を見せたのは、天下の政商〈ショウ・タイシン〉の用心棒、〈虎王コオウ・ユイ〉であった。


【 タシギ 】

「ふん、とっくに野垂れ死にしたかと思ってたけど、意地汚く生き残ってたわけだ?」


【 ユイ 】

「はっ、そいつはお互い様だろうよ」


【 タシギ 】

「アンタ、ショウ家に仕えてるんじゃなかったわけ? もしかして、宰相閣下の首を獲りにきたとか?」


【 ユイ 】

「あいにく、そんな汚れ仕事からは足は洗ったんだよ。顔なじみを見かけたから、挨拶くらいはしておこうと思ってな」


【 タシギ 】

「はぁん……?」


 タシギは旅姿のユイを無遠慮に眺め、


【 タシギ 】

「……確かにアンタ、血の臭いがしなくなってるな。もともとつまんない男だったけど、なおさらつまらなくなりやがったもんだ」


【 ユイ 】

「はっ、お前に好かれたいなんて思ったこともねぇよ、戦闘狂め」


【 タシギ 】

「だったらさっさと行ってくれる? アタシも暇じゃねぇんだ」


【 ユイ 】

「ああ、悪かったな、足止めして。あばよ」


 そのまま、ユイは再び宵闇に溶け込んでいった。


【 タシギ 】

「ふん……本当につまらねぇ男だな」


 タシギはそう吐き捨てた。


【 タシギ 】

(同じ飼い犬のくせに、すましたつらしやがってさぁ――)


 それが嫉妬の情であるとは、タシギには決して認められぬことであった――

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