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【第一部完結】薄明のエンプレス~大宙帝国興亡記~  作者: おおがみ陣矢
第一部 「落華流帝」編
71/421

◆◆◆◆ 5-16 無双の武 ◆◆◆◆

【 一同 】

「――――っ」


 入ってきたのは、見事なほおひげをたくわえた壮年の偉丈夫である。

 威風ただよう容貌といい、堂々たる体躯といい、只者でないことは一目瞭然であった。

 先ほどまで言い争っていたタシギとグンロウも、気を呑まれたかのように押し黙り、男から目を離せずにいる。


【 シュレイ 】

「貴殿は――」


【 男 】

「我が名はゴウ――貴殿らが城を下す勝負をしていると聞き、飛び入りで参加させていただいた」


 そう名乗った男が背後に向かって手を振ると、控えていた者たちが次々とやってきて、平伏する。

 口々に訴えるのを聞けば、彼らは城市の長たちであり、この轟なにがしなる男に説かれ、帝国へ味方することを決めたのだという。


【 シュレイ 】

「なんと……十に近い城が立て続けに降伏した、という報告はありましたが……」


【 グンム 】

「そうか……思い出したぞ、その髯……!」


 グンムが膝を打った。


【 グンム 】

「貴公、ゴウ・ダイトウだな? 〈勇義無双ゆうぎむそう〉とうたわれた帝国屈指の猛将……生きていたか!」


【 ダイトウ 】

「……かつてはそのように呼ばれていたこともございました。しかし、今の私はしがない牢人ろうにん……」


【 グンム 】

「ほう、ではなぜ官軍に手を貸した?」


【 ダイトウ 】

「なんでも、最も多くの城を下した者には黄金を頂けるとか……いささか路銀の足しになれば、と思った所存」


【 グンム 】

「ふむ……なるほどな。本来なら、褒賞を授けたうえ、将として我が軍に加わってほしいところだが――」


【 ダイトウ 】

「…………」


【 グンム 】

「いや、無理強いはすまい」


【 ダイトウ 】

「――かたじけない」


【 グンム 】

「しかし、なにも一刻を争う旅でもなかろう。宴への招待くらいは受けてくれような、豪傑?」


【 ダイトウ 】

「それは――」


 口ごもったダイトウであったが、


【 ???? 】

「遠慮なく受ければいいじゃないですか、師匠っ!」


 そう口を出してきたのは、脇に控えていた童子である。


【 ダイトウ 】

「ヘイジ、しかしな――」


【 ヘイジ 】

「なぁに、そちらの大将軍さまはものの道理がわかってる御方! 無理に師匠を従軍させようなんて、そんなケチな真似はしませんよ。ねぇ、閣下?」


 ヘイジと呼ばれた少年にこまっしゃくれた口上を聞かされ、グンムもつい苦笑する。


【 グンム 】

「もちろんだとも。ただ労をねぎらい、いささか軍談に花を咲かせたいだけのこと。それならよかろう?」


【 ダイトウ 】

「されば――」


 と、ダイトウは一礼したのだった。




 そして、その夜……

 諸将の働きをねぎらう宴にて。


【 グンロウ 】

「なんと、貴殿がかの名高きゴウ将軍とは……お目にかかれて光栄のいたりにござる! さぁ、どうぞ一献――」


【 ダイトウ 】

「……では、少しばかり……」


 グンロウの無邪気なまでの思慕をたたえた酌は、鉄面皮の強者といえども受けずにはいられないようであった。

 そんな様子を見ながら、


【 シュレイ 】

「(よもや、あんな大物が出てくるとは……予想外でしたな)」


【 グンム 】

「(ああ、しばらく名を聞かなかったし、人知れずこの世からおさらばしたものとばかり思ってたぜ)」


 グンムとシュレイは、声を潜めていた。


【 シュレイ 】

「(もしや、埋伏まいふくの毒――ということは?)」


【 グンム 】

「(ありえない……と言いたいところだが、ま、疑いたくなる気持ちもわかるな)」


 それというのも、ゴウ・ダイトウは――


【 グンロウ 】

「しかし、ゴウ将軍といえば、かの〈南寇〉スイ・ヤクモの右腕だったとかっ……なにゆえ、今は牢人ぐらしに身をやつしておられるのですっ?」

 *窶す……身をみすぼらしい姿になるの意。


【 シュレイ 】

「(き、聞きにくいことをあっさりと……!)」


【 グンム 】

「(あの厚かましさ、うらやましくさえあるなぁ)」


【 ダイトウ 】

「それは――」


【 ヘイジ 】

「ちょっとちょっとあんたっ、師匠にだっていろいろあるんだ! ずけずけ聞くんじゃないよ!」


 口ごもるダイトウに変わって、ヘイジなる少年が言い返す。


【 グンロウ 】

「おお――それは確かに……! 申し訳ござらぬっ!」


【 ダイトウ 】

「いや……疑問を抱くのはごもっとも。一口には言えぬいきさつがあり、私とスイ将軍は道をたがえました。今ではなんの便りも交わしてはおりません」


【 ダイトウ 】

「とはいえ、いかに賊の汚名を着ようとも、古き馴染みには違いなく……貴殿らと共に戦うことは、流石にはばかられるのです。どうかご容赦ねがいたい」


【 グンロウ 】

「おおっ……なるほど、お気持ちお察しいたします! さぁ、どうか、もう一献……」


【 グンロウ 】

「それにしても、いったいどうやって十あまりの城を、兵を率いることなく落とされたので……!?」


 グンロウはますます感激しつつ、ダイトウに話をせがんでいる。


【 ダイトウ 】

「いや、わざわざ語るようなことでも――」


【 ヘイジ 】

「へへへっ、知りたいかい? そりゃもうすごかったんだ! 師匠がただ一騎、城門に行ってさぁ――」


 謙遜するダイトウを尻目に、ヘイジが自慢話をはじめる。

 聞けば、時には城主に利害を説き、またある時は守将をあっさりと生け捕りにし、またある時はあたかも大軍を率いているかのようなハッタリをきかせ、次々と城を下していったのだという。


【 グンロウ 】

「おお――闇雲に突き進むのではなく、相手によって手管てくだを変えるとは……まさに軍略の妙味!」


 しきりに感嘆しているグンロウ。

 グンムらはそんな様子に聞き耳を立てつつ、


【 グンム 】

「(――そういえば、タシギ卿の姿が見えないようだが)」


【 シュレイ 】

「(どうせ、“飼い主”のところでは?)」


【 グンム 】

「(まぁ……そうだろうな)」

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