◆◆◆◆ 5-15 狂犬 ◆◆◆◆
グンムの命に応じ、本陣へと真っ先にやってきたのは、
【 グンロウ 】
「――兄者っ、いよいよ合戦かっ? 先鋒は俺にお任せあれっ!!」
もちろんというべきか、グンムの忠実無比なる弟、グンロウであった。
【 グンム 】
「――ここは戦地である。私のことは将軍と呼べ、グンロウ卿」
【 グンロウ 】
「はっ……失礼仕りました、嶺大将軍っ!!」
恐縮しつつ、巨躯を折り曲げて席に着く。
その後もグンム麾下の将が続々と集ってきた。
【 グンム 】
「これで全員か?」
【 シュレイ 】
「いえ、あとひとり――」
【 グンロウ 】
「ぬうっ、大将軍を待たせるとは不遜なっ! 俺――いやそれがしが首根っこをひっつかまえて連れてきてくれる!」
などと逸るグンロウを、まぁまぁと周囲がなだめていると、
【 ???? 】
「アハハハッ! 誰が誰をひっつかまえるって? 冗談きつう~い♪」
嘲るような甲高い声が響いた。
見れば、声の主は具足姿のひとりの佳人である。
【 妖しい女将軍 】
「でかい声でキャンキャン吼えないでくれるぅ? アタシ繊細だから、耳が変になっちゃうかもぉ~」
【 グンロウ 】
「うぬっ! この血に飢えた狂犬めが……!」
【 妖しい女将軍 】
「――あぁ? 犬っころはそっちだろうが、なまくらっ! 兄貴の尻を追っかけるしか能のない駄犬がよぉ……!」
【 グンロウ 】
「貴様っ……!!」
【 グンム 】
「――そこまでにしておけ」
厳粛なグンムの声が響いた。
【 グンム 】
「――これから合戦だというのに、味方同士で罵り合ってどうする? 沸き立つ血の滾りは、敵に向けてもらおうではないか」
【 グンロウ 】
「は、ははっ……!」
【 グンム 】
「それでいいな? 〈血風翼将〉――」
【 妖しい女将軍 】
「はぁ~い。も~、ちょっとした冗談でピリピリしないでよねぇ~~」
血風翼将こと〈銀・タシギ〉は、グンム麾下の将のひとり……ではあるが、もとより直属の家臣ではない。
【 グンム 】
「では、皆そろったところで、本題といこう。楽老師――」
【 シュレイ 】
「は――」
シュレイが近隣の絵図を開き、一同に示す。
【 シュレイ 】
「このとおり、この周辺には帝国にも賊にも属さぬ、旗幟不鮮明な城市が二十ほどあります」
【 シュレイ 】
「彼等を放置しておけば、のちの災いとなる可能性があります。そこで――」
【 シュレイ 】
「各将は兵を率いて、おのおのこれらの城を落としていただきたい。その方法は問いません」
【 武将 】
「力押しだろうが、謀略を用いようが、利害を説いて降伏させようが、どんな手を用いてもかまわぬと?」
【 シュレイ 】
「そのとおりです。そして、三日の間にもっとも多くの城を落とした将には……」
【 グンム 】
「――これを、褒賞として授ける。千金の価値はあろう――」
グンムが取り出したのは、天子より賜った黄金の鉞であった。
おお、と武将たちの間から声があがる。
【 グンロウ 】
「おおおっ! このグンロウが、かならずやその鉞、授かってみせましょうぞっ!!」
【 タシギ 】
「ふふん……そんなんじゃ首も斬れなさそうだけど、ま、好きなだけ城を落としていいっていうなら、乗らない手はないよねぇ~」
他の将も目の色を変え、手柄を立てるべく、勇躍、兵を率いて続々と出陣していったのである。
そして、三日後――
【 グンロウ 】
「――嶺・グンロウ、五城を抜き、ただいま戻りましたっ!!」
意気揚々と凱旋してきたグンロウ。
【 グンム 】
「見事である――すべて力づくで落としたのか?」
【 グンロウ 】
「はっ! 守兵どもをことごとく蹴散らし、敵将を一ひねりし、帝国への忠誠を誓わせてまいりました!」
そう報告するグンロウは、身に傷の一つも負っていない。
【 タシギ 】
「ふふん、ちょっとはやるみたいじゃ~ん、う・す・の・ろ♪」
血生臭さをまとったタシギが幕舎に入ってきて、せせら笑う。
こちらは頭からつま先まで真っ赤だが、よく見れば自身の血ではなく、ことごとく返り血である。
【 タシギ 】
「アタシも五城でぇ~す。ちょっと楽しみすぎちゃったぁ♪」
その手に下げていた袋を、地面に投げ落とす。
転がり出てきたのは、五つの生首であった。
【 グンム 】
「これは――」
【 タシギ 】
「城の主たちでぇ~す。抵抗するもんだから、つい頑張っちゃってぇ~♪」
鮮血に染まった顔に、凄みのある笑みをたたえている。
【 シュレイ 】
「……抵抗せずに降伏した城もあった、という報告も受けていますが?」
【 タシギ 】
「あれぇ~、そうでしたっけぇ? うっかりしちゃったかもぉ~~♪」
【 シュレイ 】
「のみならず、無抵抗の城民も手にかけたとか――」
【 タシギ 】
「アハハッ! たまたまですってぇ~♪ だっていくさだもん、そういうこともあるでしょぉ~~?」
【 グンロウ 】
「――っ、貴様っ……将軍の名に泥を塗るような真似をっ!!」
【 タシギ 】
「あぁ? なんか文句あんの、ウドの大木が――」
と、両者が険悪な空気をはらむ中、
【 ???? 】
「――失礼する」
ゆらり、と音もなく一人の男が幕舎へ踏み入ってきた。
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